スタートアップが日本を復活に導く

――新機軸ではスタートアップを重視しています。その理由を教えてください。

私は以前から、スタートアップは日本経済にとって非常に大事であり、国として応援しなければいけないと思っていました。昨年「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップへの投資額を2027年度に現在の10倍以上の10兆円規模にする目標を定めました。

挑戦する企業がどんどん出てこないと、日本に新しいものは生まれません。ですから彼らが目の前にある課題に対して自由な発想で取り組めるような環境をつくることが大事です。

そのためにも、人材も資金力も豊富な大企業がスタートアップと積極的にコラボレーションしていくべきだと思います。日本企業では研究開発を自社内で行う「自前主義」の文化が根強くあります。日本経済の復活には、社外組織と連携して、外から良い技術やアイデアを取り入れる「オープンイノベーション」が不可欠です。

製薬業界など一部では大企業とスタートアップの連携が進んでいますが、もっと多くの業界に広がってほしい。われわれもオープンイノベーション促進税制などでこれを推し進めていきます。

日本企業の中でイノベーションが生まれにくくなってしまったのには、90年代の新自由主義的な政策の影響もあるかもしれません。バブル崩壊で、企業は一気に保守化していった。リストラの嵐が吹き荒れる中で国が「自由に挑戦してください」と言っても、状況として難しかったんだと思います。このときにしっかり手を打つべきだったという思いがあります。

だからこそ国が前に出て、民と一緒に社会課題の解決に向かって一緒になってやっていく新機軸に大きな意味があるのだと思います。

「最大で最後のチャンス」を逃してはいけない

――新機軸の今後の展望について教えてください。

新機軸のもう一つの柱は、日本の社会経済システムの基盤、つまりOSを組み替えることです。これは私たち経済産業省自身も同様です。

「100点を取るまでやらない」という役所的な考え方のままでは、世界との差が開いていくばかりです。大事なことは走りながら考えること。新機軸ではEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)の重要性を強調しています。失敗を恐れず、データを活用し政策効果を適宜検証しながら政策を進めていく必要があります。

挑戦にはリスクが伴いますが、海外の国々はすでに企業に任せきりにせず、官民が一緒になって挑戦する新しい産業政策を進めています。日本が失われた30年を取り戻すには今が正念場。最大で最後のチャンスです。私たちはこの「新機軸」をもとに、国内投資の拡大、イノベーションの加速、国民所得の向上の3つの好循環を実現させ、日本を再び成長できる国にしたいと思っています。

飯田祐二経済産業政策局長
撮影=遠藤素子
(構成=辻村洋子)
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