インドの人口が増え続けている。2023年には中国を超えて世界一になることが確実視されている。インドに詳しい防衛大学校教授の伊藤融さんは「インドは人口ボーナスを土台にして、かつての中国のような『世界の工場』を目指している」という――。

※本稿は、伊藤融『インドの正体「未来の大国」の虚と実』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

バラナシの聖なるガンジス川で入浴する儀式。
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なぜインドと積極的に付き合わなければならないのか

われわれとインド。自由や民主主義といった同じ看板を掲げてはいるものの、そのなかをよく覗いてみると、ほんとうに価値の大半を共有しているといえるのかどうか疑わしい。そして中国の台頭と挑戦をめぐっても、その対応には温度差があり、さまざまな場面でみずからは途上国、あるいはグローバル・サウスだと強調するインドとは、利害が全面的に一致するわけでもない。だとすれば、なぜそんな国と積極的に付き合わなければならないのか? もっと距離を置いてもいいのではないか? そういう疑問がでてくるだろう。われわれにとって、インドという国と距離を置くという選択肢が現実的なものなのかどうかを検討してみたい。

その前提として大事なのは、インドという国の実力と潜在力がどの程度のものなのかを把握することだろう。インドは中国や韓国と違って、われわれの隣国というわけではない。もし現在も未来も、それほどのパワーをもつ国ではない、ということであれば、遠く離れたインドと無理して付き合う必要はない、という理屈も成り立つからだ。

日本の8倍以上の面積を誇る

まずは地理的な視点からみてみよう。この国はユーラシア大陸南端のインド亜大陸に位置する大陸国家であり、かつインド洋に面する海洋国家でもある。後者に関していえば、ヨーロッパ、中東と、日本や東・東南アジアをつなぐ海上輸送路の中央に、インドが位置するという点が重要だ(図表1)。故安倍元首相も語ったように、インドの海域や港湾は世界中の通商の要といってよい。かつて、ソマリア沖・アデン湾の海賊問題が大きな脅威となった。インド洋に突き出したインドが、不安定化して同様のことが生じたり、万一、インドが航行の自由を妨害するような国になったりするならば、国際通商に及ぼすダメージはそれ以上の甚大なものになる。

メルカトル図法の世界地図を眺めていてもピンとこないだろうが、地球儀をよくみると、インドは面積も意外なほど大きい国だ。もちろん中国にはかなわないが、インドの国土面積は、東欧を除く大陸ヨーロッパとほぼ同じくらいの規模になる。日本の8倍以上の広さだ。そして北部にヒマラヤ山脈があるものの、中央部のデカン高原を含め、国土の大半は、耕作あるいは牧畜が可能で、人の住める環境下にある。