アルツハイマー型認知症

物忘れ外来を受診し、認知症検査を受けた夫は、「アルツハイマー型認知症」と診断。中でも空間認識がゼロに近かったため、自分の居場所や方角がわからなくなるという。華岡さんは、ここ数年の夫の異変は、これですべて説明がつくと思った。

「夫は圧迫骨折の手術が終わった後、勝手に退院しようとして、『まだ抜糸が終わっていませんから戻ってください!』と慌てて駆けつけた看護師に引き止められていて、もう、あきれ果てました……」

アルツハイマー型認知症と診断されると、夫は警備の仕事を退職。華岡さんは車の免許を返納してほしかったが、夫は免許更新を問題なくクリアしてしまう。

華岡さんが物忘れ外来の主治医に相談すると、「不思議なことに、認知症でも問題なく更新できてしまうのです。同乗するときは死んでもしょうがないと思って乗ってください」と真顔で言う。

ハンドルを握るシニア
写真=iStock.com/kyonntra
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これを聞いた華岡さんは、「他人を巻き添えにしたら大変!」と、夫を説得。しかし何度説得しても、夫は応じようとしない。再び次男に説得してもらって、夫は免許を返納。華岡さんいわく、「次男は反論ができないように外堀を埋めて、手際良く説得してくれる」から、次男に頼むのだという。

アルツハイマー型認知症と診断され、仕事を辞めた夫は、要介護1と判定され、週2回機能訓練型の半日のデイサービスに通い始めた。華岡さんは、本当は1日型のデイサービスに行ってほしいのだが、夫は「ジジババばかりだから行きたくない!」と言う。

では、家で何をするのかといえば、食事以外の時間は、自分の部屋でずっとテレビを見ているだけ。しかも“見ている”と言っても、内容は全く覚えていないようだ。

「話したことは、ものの数十秒で忘れてしまうので、意思疎通ができないことがつらいです。足腰が丈夫なので、私が留守の間、用もないのに外に出てうろつくことがあるのですが、今は自分で家に戻ることができても、『徘徊はいかいして戻らなくなったら……』と心配です。北海道の義母も、脳梗塞から認知症になり、義弟の妻がメインで介護をしていましたが、私も時々手伝いに行っていました。あまりにもひどい状況を見ているので、最後には同じようになるのではないかと不安になります。義母を看取ってから約10年後、昨年5月には認知症だった義弟まで心不全で亡くなりました。認知症は遺伝性があるとネットで見たので、子どもたちのことも心配です」

以前、購入した大きめの家は手放したものの、残ったローンは夫が支払っていた。夫が認知症になってからは、華岡さんが残債を払い続けていたが、あるとき華岡さんが、「いつまで支払うのだろう?」と思い、夫にたずねたが、「分からない」と言う。

らちが明かないので、家中探したところ、いろいろな書類が出てきて、まだ4500万円も残債があることが判明。華岡さんがすぐに弁護士を依頼したところ、夫の自己破産の手続きをしてもらうことができた。