アメリカや欧州のように日本でも金融引き締めを行うべきなのだろうか。嘉悦大学教授で経済学者の髙橋洋一さんは「日本では依然としてデフレギャップが発生している。金融緩和を継続し、需要喚起を続けるのが正しい選択だ」という――。

※本稿は、髙橋洋一(監修)『新聞・テレビ・ネットではわからない日本経済について髙橋洋一先生に聞いてみた』(Gakken)の一部を再編集したものです。

米連邦準備制度理事会(FRB)本部=2022年03月20日、米ワシントン
写真=AFP/時事通信フォト
米連邦準備制度理事会(FRB)本部=2022年03月20日、米ワシントン

欲しがる人に対してモノが不足すれば、物価は上昇する

新型コロナウイルスによって停滞する経済を支えるため、世界各国では金利を下げる金融緩和政策が取られてきました。その副作用として発生したインフレを抑え込むため、アメリカでは金融緩和をやめ、金融引き締めへと政策転換。ヨーロッパ中央銀行やイギリスも金融引き締め、つまり金利の引き上げに転じています。

そんな中、日本は金融緩和を続け、金利差を背景に円安・ドル高が進みました。これに対し、「日本も金利を上げなければ大変なことになる」という人がいますが、本当でしょうか。

まず、物価が上昇するのはなぜか、マクロ経済学の基本をおさらいしましょう。モノやサービスを欲しがる買い手(総需要=実質GDP)が増えているのに、生産・販売(総供給=潜在GDP)が不足すると、「実質GDP>潜在GDP」となって物価が上がります。欲しがる人に対してモノが不足すれば、物価は上昇するということです。

「実質GDP-潜在GDP」の差が「GDPギャップ」です。実質GDPのほうが多ければこの計算はプラスで「インフレギャップ」(好況や景気の過熱を示す)、逆にマイナスなら「デフレギャップ」(景気の停滞、不況を示す)になります。つまり、その国がインフレ傾向にあるかどうかは、このGDPギャップを見ればわかります。

アメリカは大型の経済対策でコロナ禍から回復

どのような場合に実質GDPが増えてインフレギャップが生じるのでしょうか。次の3つの要因が考えられます。

①民間の消費が拡大している
②政府による財政出動が行われている
③低金利政策が取られている

「消費=需要」ですので、1つめの「民間の消費が拡大」は、文字どおり、実質GDP増ということを意味します。

2つめの「政府による財政出動」とは、政府が費用を負担して公共投資を行い、仕事をつくり出すもの。政府による需要創出であり、これも実質GDPを増やすことになります。

3つめは、政策金利(中央銀行が金融機関に貸し出す際の金利)を低くすることで、金融機関が資金調達しやすくし、企業や個人に低金利で貸し出しできるようにするものです。企業は設備投資などを進めやすくなりますし、個人は住宅や自動車といった高額な買い物がしやすくなり、実質GDPが増加します。

アメリカ政府は2021年3月に、コロナ禍による停滞から経済を回復させるため、200兆円規模の経済対策法案を成立させました。国民1人あたり最大1400ドルの支給や、失業保険の追加給付、子育て世帯への減税などを実施。これにより個人消費が回復し、アメリカ経済は急伸。そして、予想されたことですが、物価の上昇が引き起こされたのです。