まるで飲食店バイトの面接のようだった

【塩田】闇バイトのリクルーターと何度もやりとりして驚いたのは、リクルーターが強盗の手順を淡々と説明することでした。例えば「うちは“シバリ”はあんまりないから」と笑いながら言うんです。「シバリって何ですか」と聞いたら、「民家に入ったときにたまにジジババがいるけど、やかましくて仕方ないでしょ。だからダクトテープで口をぐるぐる巻きにして縛る。塩田くんは安全だよ」と、まるで飲食店バイトの面接をするような口ぶりでした。

向こうは僕がそれを聞いても何とも思わない前提で話していた。裏を返すと、闇バイトに応募する人の多くは、他者の痛みに対する想像力が著しく欠けているのだなと思いました。

【宮台】僕は感情的劣化と呼びます。60~70年代に精神障害とは別に人格障害概念が生まれた背景に関連します。刑法39条に「心神喪失者の行為は、罰しない」とあるのは、「悪いのは人よりも病だから、罰せずに治療せよ」という精神障害の扱いゆえです。他方、人格障害は病でなく、古くは性格異常と呼ばれたもの。標準を外れた感情プログラムを指します。60~70年代から目立ち始めた。背景は成育環境の激変です。

感情の交流がない「郊外化」が進んでいる

【宮台】正確には、60年代の英国で生まれた行為障害概念をヒントに、70年代の米国で人格障害概念が生まれ、80年代から日本でもポピュラーになります。感情プログラムの偏りを定義する物差しは文化的なものです。僕の子供時代は蛙の尻穴に爆竹を挿して爆破させる遊びが普通でしたが、今なら人格障害です。なので、人々の生活形式がばらけて共通感覚が失われたことも、人格障害が問題化した社会学的背景です。

宮台真司さん
撮影=門間新弥

普通の人にできない残虐行為が平気なのはどんな子かと興味を持ち、90年代後半に少年犯罪を取材しました。すでに各種人格障害と鑑定される被疑者が多くいました。発達障害がある子の扱いを含めて成育環境に問題を抱える子が増えたからです。昔も育ちが悪くて不良化した子はいたけど、映画が描くような不良界隈があってその作法を学んだだけで理解可能なテンプレでした。凶悪な単独少年犯罪とは質が違います。

成育環境の問題を説明するのが「3段階の郊外化」です。第1段階は60年代の団地化=地域空洞化。第2段階は80年代のコンビニ化=家族空洞化。第3段階は00年代以降のスマホ化=個人空洞化。KYを恐れてキャラ&テンプレを反復する営みが全域化します。年齢や性別のカテゴリーを超えてフュージョンする営みが子供から奪われ、教室でも家族でも上辺をつくろう不毛さが支配。感情的能力を育む機会が失われました。