「試乗してみませんか?」営業マンの人生を変えた

我究館やプレゼンス、そして『絶対内定』や『アツイ コトバ』といった本を通して、杉村太郎と出会って「人生が変わった」と言ってくださる方が多くいらっしゃいますが、ここにまた、太郎との出会いで、運命が変わったと話してくださった方がいます。

とある輸入車販売会社のセールスパーソンだった方も、そのひとりです。

太郎は車が大好きで、「これは!」という車はローンで購入して、ドライブすることが趣味でした。中でも好きだったのがポルシェです。

太郎はアメリカ留学から帰国した翌年、がんと告知された状況下でしたが、ポルシェのショールームにわたしたち家族も連れて足を運びました。

ピカピカに磨かれたポルシェ911を真剣に見つめる太郎に、さわやかな笑顔が印象的なセールスの方が話かけました。太郎も車の性能について次々と質問をし、その瞬間は病気であることを忘れているのではないかと思わせるほど、うれしそうでした。

すると、あまりにも太郎が楽しそうだったからか、セールスの方が「試乗してみませんか?」と言ったのです。

太郎は目を輝かせて「いいんですか!」と即答。わたしと娘はショールームに残り、太郎は意気揚々とセールスの方と試乗車に乗り込んで、ショールームをあとにしていきました。

車内からディーラーと握手するのが見える
写真=iStock.com/dikushin
※写真はイメージです

「家庭を持っている人の中での一番であれば十分」

ここからは、太郎が亡くなったあとに、セールスの方から聞いた話です。

高速での運転を体感するため、向かった先は第三京浜。車内でセールスの方から車の説明を受けながら、ハンドルを握る太郎が「営業成績いいでしょ?」と聞いたそうです。

当時、彼は常時全国のセールスランキングで3位にランクインするほどの若手ナンバーワンと言われるエースだったそうです。結婚もされ、仕事と家庭の両立も意識して仕事をしていたので、「わたしはトップをめざしてるわけではなく、家庭を持っている営業の中でのナンバーワンであれば十分なんです」と自信満々に答えたそうです。

すると太郎は顔つきが変わり、アクセルを一段踏み込みながら意外な反応を示したそうです。「それだったら、もう辞めたほうがいい」「やるんだったらナンバーワンをめざすべきだ」「そのほうが格好いいし、楽しいはず」。

太郎とはまだ出会ったばかりで彼はその唐突な言葉を受け、とまどいを感じたのは言うまでもありません。