2012年7月25日(水)

なぜ日本の天然ガスの価格は、アメリカの9倍も高いのか

PRESIDENT 2012年7月16日号

著者
橘川 武郎 
一橋大学大学院商学研究科教授

1951年生まれ。東京大学大学院経済学研究科第2種博士課程単位取得。青山学院大学助教授、東京大学社会科学研究所教授を経て、現在一橋大学大学院商学研究科教授。専攻は日本経営史、エネルギー産業論。著書に『日本電力業発展のダイナミズム』、共著に『現代日本企業』などがある。

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一橋大学大学院商学研究科教授 橘川武郎=文 平良 徹=図版作成
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シェールガス革命の結果、米国市場での天然ガス価格は劇的に下がったが、日本市場では高止まりしたままである。日本がその恩恵を享受できない理由と進むべき道について、筆者は説き明かす。

シェールガス革命の中心地で見たダイナミズムとは

世界のエネルギーのあり方を大きく変えつつある、アメリカで起きた「シェールガス革命」。その中心地の一つであるテキサス州バーネット地区にあるフォートワース市内のシェールガス田を、今春、見学する機会があった。

シェールガス革命を可能にしたのは、水平掘削、水圧破砕、マイクロサイスミック(割れ目形成の際に発生する地震波を観測・解析し、割れ目の広がりを評価する技術)などの技術革新だが、その担い手となったのは、大手のエネルギー企業ではなく、小規模で出発したベンチャー的色彩の濃い企業群だ。シェールガス田では、開発直後に大量の天然ガスを産出するが、すぐに生産高は減衰し、その後は少量の生産が続く。このため、次々と掘削を繰り返すスピード感ある事業展開が求められる。訪れたのは、Chesapeake社の掘削現場とQuicksilver社の水圧破砕現場であったが、これらの企業は、まさにシェールガス革命の主役たちだといえる。

掘削現場も水圧破砕現場もそれほど広くはない。草野球場2~3面ほどの面積だ。それを、防音材でできた高さ数メートルの簡単な壁が、ぐるりと囲んでいる。現場のすぐ近くに多数の民家があるため、環境への配慮、とくに防音は、事業遂行上の重要課題だという。訪ねた掘削現場の場合、周辺住民がコミュニティ全体で鉱業権を持ち、シェールガス田の収入の一部を分与されていると聞いた。掘削作業に要する時間は、平均8~13週間程度だそうだ。

水圧破砕現場では、同時に複数のガス井が生産にあたっていた。1本のガス井の掘削延長は、垂直掘削と水平掘削と合わせて1万4000フィート(約4300メートル)に及ぶこともある。掘削にあたっては、地下水を汚染しないよう、とくに気を使っているようだ。

「草の根」的な形で開発が進んだバーネット地区では、2010年に、1兆8000億立方フィートのシェールガスが生産された。同年、アメリカの天然ガス供給に占めるシェールガス供給の比率は、23%に達した(JETROヒューストン事務所調べ)のである。

テキサス州のシェールガス田からさらに足をのばして、隣州のルイジアナ州にあるCheniere社のサビンパスLNG(液化天然ガス)基地も見学した。Cheniere社は、もともと天然ガスの開発・生産を目的にして、1996年に設立された独立系企業である。しかし、開発・生産に見るべき成果をあげなかったため、事業目的をLNG輸入に切り替え、港湾施設と16万キロリットルタンク5基を建設し、これまでQフレックス級(積載容量21万立方メートル級、Qはカタールの頭文字)やQマックス級(積載容量26万立方メートル級)のLNGタンカーを、いずれも全米で初めて受け入れてきた。

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