完璧とはいえない日英皇室外交のバランス

また、1989年の昭和天皇の大葬にはフィリップ殿下が、平成の即位礼にはチャールズ皇太子とダイアナ妃が、令和の即位礼にはチャールズ皇太子が来日している(カミラ妃は飛行機嫌いなので弾丸旅行を嫌われたといわれる)。これのほかに、チャールズ国王は皇太子時代にダイアナ妃とカミラ妃とそれぞれ1回訪問している。

そして、2020年には天皇皇后両陛下が訪英されるはずだったが、新型コロナ禍で延期になり、2022年9月のエリザベス女王の葬儀には両陛下が参列された。

皇室外交のバランスを考えた場合、本来は女王が訪日する番だったのだが、晩年の女王は外遊を減らされていたのでやむをえないとはいえ、英王室とややバランスを失した状況であるのは確かだ。

エリザベス女王が日本の皇室を特別扱いしていた、と言う人が根拠として挙げるエピソードの一つが、平成の両陛下が出席された2012年のエリザベス女王在位60周年記念行事だ。これは、記念撮影のときには外交儀礼の原則に従い、参加した君主・元君主の即位順で両陛下は第9位の位置に座られたのに、午餐会では女王の左隣という第2位の上席を用意されたというものだ。

しかし、参加者のうち女王たちと元君主、そしてある意味で格下ともいえる英連邦加盟国の君主(スワジランド。現エスティワニ)を除くと、即位順でスウェーデン国王がトップで陛下が第2位だった。まさにその通りの席だっただけで、なにも冷遇はされていないが特別の配慮ではなかった。

両陛下の訪英が続くことに配慮された可能性も

ただ、伝統的に日本皇室への特別待遇を継続的にしてくれているのは、イギリスの最高勲章であるガーター勲章を、非キリスト教国ではただ1カ国だけ、日本の天皇陛下が明治天皇以来、授与されているからだ。現在も上皇陛下がガーター騎士団の一員である(天皇陛下もいずれ授与されるだろう)。

今回、天皇皇后両陛下の参列でなく、秋篠宮皇嗣殿下ご夫妻となったのは、2020年から延期になっている両陛下の訪英が近いうちに実現した場合、短期間に日本側ばかり連続3回の訪英となって、アンバランスが拡大することも配慮されたと見ることもできる。

日本学術振興会育志賞授賞式の会場に到着された秋篠宮ご夫妻=2023年3月2日、東京都台東区の日本学士院会館[代表撮影]
写真=時事通信フォト
日本学術振興会育志賞授賞式の会場に到着された秋篠宮ご夫妻=2023年3月2日、東京都台東区の日本学士院会館[代表撮影]

さらにいえば、むしろ、新しいチャールズ国王陛下ご夫妻に先に訪日していただいて、大歓待することで、日本の皇室外交への評価を高めることが日英皇室の絆を高めるためにも、世界戦略としても意義があると思う。

外交上の互恵性ばかりにこだわる必要はないが、一定の配慮はしないと国としての尊厳にかかわる問題であるし、イギリス王室はそういうプロトコール上の問題には非常に神経質で誇り高い。エリザベス女王は、1993年に行われたベルギーのボードワン国王の葬儀で席次を巡ってもめて以来、ベルギー王室を冷遇しているといわれるほどであり、日本の皇室もバランスを気にするのが当然だろう。