「300万の壁」を超えるには大都市に出るしかない

しかも、この若者の人口移動と婚姻率とも関係があります。婚姻率で全国平均を上回っているのは、東京、神奈川、大阪、愛知、福岡、沖縄のわずか6エリアしかない(滋賀と広島は全国平均と同じ)のですが、それら婚姻率が高いのは沖縄を除けば、ほぼ若者の人口流入の多いところばかりです。

男性の結婚には、「年収300万の壁」というものが存在します。これは、個人の年収が額面で300万円を超えないと結婚できないというものです。もちろん、例外もありますが、全国的な統計で分類すると、結婚適齢期である25~34歳の段階で年収300万円を超えるか超えないかで既婚率が大きく変わることも事実です。

25~34歳未婚男性において、その「年収300万の壁」を中央値で超えないエリアが、日本には47都道府県中27エリアもあります。実に6割以上です。中央値なので、半分が超えていないということになります。言い換えれば、結婚への必要条件たる300万以上を稼ごうと思うなら、東京や大阪などの大都市に出るしか、若者に残された道はないということでもあります。

ちなみに、婚姻率ではなく、婚姻実数で見てみると、若者が流入超過している11都府県の合計だけで、日本全体の婚姻数の57%を占めています。いかに、若者の人口流入と婚姻との関係性が強いかがわかるでしょう。

若者が故郷を捨てて出ていく「隠れた理由」

とはいえ、国も自治体も何も手を打っていないわけではありません。

デジタル田園都市構想を掲げ、デジタルの力を活用した地方の課題解決のために「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」という4つに重点を置いた取り組みをしているそうです。

しかし、「地方に仕事をつくる」と言うはやすしですが、実現は相当難しいでしょう。大企業の大部分が大都市に集中しているからです。一時期、テレワークの活用とかが注目されましたが、「出社してよし」となればほとんどの若者が出社しています。大企業であればあるほどなおさらです。

なんのために多くの社員がいる大企業に入ったかといえば、そういう社内での人との直接的な交流を求めているからです。そして、それは決して、リモートワークなどというスクリーン越しの交流では生まれないことをこの3年でみんなが実感したことでもあります。

実は、そこにこそ、仕事だけではない「若者が地方を捨てて出て行ってしまう」隠れた理由があります。若者は人と出会いたいし、交流したいのです。その先には恋愛や結婚もありますが、それだけではありません。若い柔軟な時期に、自分の人生を大きく変える可能性があるのは、人との出会いでもあるからです。人が集まる場所にはそれが期待できますが、地方にはそもそも人がいない。

人通りの少ない住宅街
写真=iStock.com/Amenohi
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