本書で詳しく検討したように、こうした子供たちは、年齢相応の語彙を身につけ、情緒力、想像力、論理的思考力を育て、言葉によって思考するという、総合的な意味での国語力をつけることができなかった。

なぜ、そうしたことが起こるのか。子供の国語力の成長を阻害してしまう要因を、家庭での親子の関係性に焦点を当てて考えてみたい。

親との接し方で国語力の差が生まれる

家庭は、子供にとって国語力を育む基盤である。親との会話、読んでいる本、日常での遊び方など、家庭の言語空間が子供の国語力を育む。

特に未就学児の場合は、親と何をして過ごしているかが重要だ。たとえば、絵本の読み聞かせをしてもらっている子と、そうでない子の間には、大きな国語力の差が出ると言われている。

母と男の子が自宅で絵本を読む
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです

絵本で使用される言葉は、家庭の中の日常会話とは質がかなり異なる。それを日常的に聞いている子は、語彙が増えるだけでなく、言葉のバリエーション、たとえば「切る」という言葉を、切断の意味だけでなく、「水を切る」「力を出し切る」「カードを切る」など多様な形でつかいこなすことができるようになる。

また、絵本の読み聞かせの利点は、そこから親子の様々なコミュニケーションが生まれることだ。

母親に『100万回生きたねこ』を読んでもらったとする。内容について様々なことを考えるのはもちろん、そこから猫の生態や友達が飼っているペットにまで話が広がったり、母親の声が嗄れているのに気づいて心配をしたりすることで、いろんな感情や想像力が刺激され、新たな言葉が飛び交うようになる。

つまり、絵本の読み聞かせは、単なる内容理解に留まらず、実践的で幅の広いコミュニケーション力や教養力を育てることにつながるのだ。

一方、最近の親がよくするスマホ育児(タブレット育児)は、そうした効果が格段に乏しい。

親は、スマホを渡しておけば、子供は静かにするし、スマホから十分な情報を得ていると考えがちだ。だが、近年の研究では、子供は二次元の情報を現実と重ねることが不得意とされている。

スマホ育児は百害あって一利なし

たとえば、スマホに「リンゴ」が映っても、それを現実のリンゴと完全に同一視できなかったり、リンゴの甘さを想像して食欲を刺激されたり、きれいとか、硬いといったイメージを浮かべられなかったりするのだ。「画面の中の赤く丸い塊」という漠然とした認識なので、感覚が刺激され、言語が生まれることが少ない。