トヨタ生産方式の真の目的は「効率化」ではない

豊田社長:トヨタ自動車にはやはり創立以来……、いや、トヨタ自動車ができる前からの“2つの考え方のポイント”があります。なんだか分かりますか?
受講者A:TPS(トヨタ生産方式=筆者注)と原価低減です……。
豊田社長:TPSと原価低減……。隣の人、どう? 分かる?
受講者B:はい……。「ジャスト・イン・タイム」と「ニンベンのついた自働化」……。
豊田社長:そうそうそうそう! これが言ってほしかったの!(一同笑)
ジャスト・イン・タイムとニンベンのついた自働化っていうのを、入社以来ずっとその2つが2本の柱とされて、ずっと分かったような気になってると思います。
たぶん分かってる人もいるでしょう。分かった気になった人もいると思います。

だから、今回このTPSの研修にあたり、この基本中の基本である「自働化」とそして「ジャスト・イン・タイム」という2つの言葉の意味を、皆さんと我々でギャップを、ちょっと縮めておきたいなということで、そこだけは私にやらせてもらうということになりました。(中略)
佐吉少年(※)が気付いたのは、毎晩、夜なべをしてお母さんが機織り仕事をしていた……、その仕事を楽にできないのかなということ。それが佐吉少年の着眼点だったんです。

“TPS=効率化”と捉えられ、そして、それで「仕事のやり方を変えるんだ」ということが、ほぼ目的かのごとく語られていますけど、目的はあくまでも“誰かの仕事を楽にしたい”ということですね。そう考えるのが、一番わかりやすいんじゃないのかなと思います」(トヨタイムズより)

※豊田自動織機創業者の豊田佐吉のこと

集合研修だけでなく、「1対1の対話」を重んじる

豊田さんはわかりやすく、相手を見つめながら、質問しながら話を進めていきます。

トヨタの教育とはつまりこれです。対話です。

一方的に知識を授けるのではなく、参加した相手の理解度を見極めながら、それにあった知識や知恵を伝える。大勢を相手に講義するよりも簡単ではないし手間がかかる教授法です。しかし、トヨタでは集合研修だけでなく、オンラインなども駆使して、対話の機会をつくっています。講師になる人たちもみんな豊田さんのように質問を掘り起こしながら進めていきます。

大勢が参加する会議より、1対1の対話、打ち合わせを重んじる風土があるのでしょう。

そして、対話とは先生から弟子への一方通行ではありません。先生もまた弟子から学びますし、弟子に教えるために多くの勉強をしなくてはなりません。

「最上の教師とは教えるのが上手なのでなく、生徒と一緒になって学ぶ人をいう」

トヨタの上に立つ人たちは全員がそういう教師を目指しています。