労働者にとってのメリット

解雇の金銭解決の導入は、大部分の社員にとってもメリットは大きい。今後、働き手人口が持続的に減少していく中で、仕事能力に見合った待遇でなければ、条件の良い企業に移動する人が増えるのは必至で、結果的に、企業に対する交渉力は高まっていく。例えばコロナ下で大幅な旅客減に見舞われた大手航空会社では、社員の賃金をカットして雇用を維持という伝統的な手法を用いたが、その賃金では見合わないと判断した一部社員が自発的に離職したという(首藤若菜「雇用と賃金」2021)。

雇用の流動性が高まる今後の日本において、企業は、社員全員の雇用維持よりも、社内の個々のチームごとでの生産性向上を通じた賃金上昇を進めていくだろう。その際、こうした企業の方針に協力的ではない社員には一定の解決金を与えた上で別の適した働き場所を見つけてもらうという基本原則が、他の多くの社員の生産性向上に貢献することで支持を得るようになろう。

定年制廃止のためのカギ

これはとくに個人としての仕事能力の差が大きな高年齢社員について重要となる。今後の高齢化社会では、急増する高年齢社員をどう活用できるかが、人事管理の大きなポイントとなる。その最大の障害となるのが、大企業の9割弱が60歳に定めている定年退職制である。

首藤若菜『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩書房)
首藤若菜『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩書房)

個々の社員の仕事能力の差は若年時に小さく、その後のキャリアパスなどを通じて次第に拡大する。それにも関わらず、一定の年齢に達したことのみを根拠に画一的に解雇することは、他の多くの先進国では禁止されている「年齢による差別」である。

これが日本で許容されているのは、年功賃金や雇用保障を際限なく続けられないことである。これは逆に、その二つの要因を改善すれば、日本でも定年制を廃止できることになる。

一律的な年功賃金を止めるためには、同一労働同一賃金の原則がある。これはすでに安倍政権で法制化されたが、正規と同じ勤続年数という(ほとんど存在しない)非正規間に適用という抜け穴がある。これを勤続年数に関わらず適用し、また正規労働者間でも実施することが必要となる。

一律的な年功賃金を止めるために、長期雇用保障の例外としての解雇の金銭補償を設ければ、雇用の安定性が損なわれるという見方もあるだろうが、一部の仕事能力を欠く社員の雇用保障のために、60歳時点でほぼ全員の雇用保障が失われるという、労働者全体にとっての損得を再考するべきだろう。