飲食物の差し入れ、購入は不可なのだが…

ここでは何をさておき、お菓子の購入が魅力的である。通称“甘モノ”と呼ばれるチョコクッキーやバタービスケットなどが大人気。刑務所では原則的に給食以外のものは食べられない。飲食物の差し入れ、購入は本来は不可。ただこれが態度良好な被収容者には優遇措置が与えられる。

酒もタバコも炭酸飲料もないヘルシー過ぎる食生活をしていると、大半の被収容者は甘いもの好きになっていく。だから大の男がチョコクッキーひと箱のために一生懸命だ。この特権を得るためなら嫌な担当者にもいい子ちゃんぶることはやぶさかでない。

「班長」などの役職は小さな成功体験になっている

〈衛生係〉、〈班長〉なんていう役付きもある。態度良好な者に与えられる。彼らは作業着に腕章をつけているから遠目にもすぐにわかる。こうした役をもらうと、被収容者なりにも誇らしげな表情に変わっていくのがそばにいるとわかる。

学級委員に選ばれた小学生が自慢げに胸を張って歩くのに似ている。いいおとながお菓子や腕章欲しさに何をやってるんだ? と滑稽に映るかもしれないけれど、幼少期に誇らしく思える体験をしてこなかった者にとってこういうことは馬鹿にならない成功体験なのだ。

おおたわ史絵『プリズン・ドクター』(新潮新書)
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それにこうしたいい子的な態度が日常的に体に染み込めば、それはそれで悪いことはない気もする。たとえどんな動機であったにせよ、結果的にその後の人生にも好影響をもたらす。出所してからの暮らしを考えたなら、まともに挨拶できないよりはできたほうがいいし、お礼は言えないよりはちゃんと頭を下げて言えたほうがいいのだから。

そんなふつうの社会生活のひとつひとつを教育していくのも矯正現場の大きな役割だ。私はそう思っている。「ありがとうございました! ○番、帰りますっ」。深々とお辞儀をして帰って行く後ろ姿に、「はい、お大事にね」。私がかける声は、外の世界での外来と何ひとつ違いはない。

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