2012年6月20日(水)

再生完了!JAL流「アメーバ経営」を解剖する

「アメーバの利益率が高い」ことは機会損失の可能性も意味する

PRESIDENT 2012年7月2日号

甲南大学特別客員教授 加護野忠男=文
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JALがV字型回復を果たした。稲盛式経営の特徴である、「フィロソフィー」と「アメーバ経営」は低価格航空会社との競争においても貢献していると筆者は説く。

ファーストクラスのない便が増えた理由

JALの再生が完了したようだ。何を基準に会社の再生が完了したといえるのかを具体的に定義することは難しい。だが、JALの利益を見る限り、再生は終わったといってもよいだろう。再生初年度である2010年度に赤字は解消され、地震と津波、それに原発事故で内外の旅客が減るという厳しい環境下にあった昨年度でも高水準の利益が出ている。まさにV字型回復だ。再上場も予定されている。株主に大きな迷惑をかけた企業が再上場するのはいかがなものかという気の早い議論も戦わされている。

稲盛和夫氏の企業再建は、2つの柱によって支えられている。1つの柱は理念主義的経営である。フィロソフィーを確立することによって会社の目的を明確化し、従業員の仕事に取り組む姿勢を強化することができたのは、稲盛氏の理念主義経営が功を奏したからだと見ることができる。京セラと同じように、企業の目的は従業員の物心両面の幸福を追求することとされた。もう1つの柱は合理主義の経営である。利益数字を見て、合理的な経営を行うアメーバ経営である。この2つがお互いに支えあって効果を発揮したというべきかもしれない。理念主義だけだと、気持ちが空回りしてしまう可能性がある。アメーバだけだと、会社の空気がすさんでしまう。今回の再生の成功で、稲盛式経営は、製造業や通信産業だけでなく、航空産業にも成り立つことが実証されたともいえる。

あれだけの人減らしをすれば業績がよくなるのが当たり前だ、あるいは、以前は無駄が大きすぎたから、ちょっとした無駄取りをしただけで大きな利益が出たのだという皮肉な見方をする人もいる。しかし、このような冷めた見方をする人々には、リストラをしても改善しない企業が少なくないことを思い出してほしい。

実際にJALを利用すると、アメーバ経営がもたらしたと思われる変化を認めることができる。私は体が不自由なので東京往復にも飛行機を使う。新幹線の駅より飛行場のほうがバリアフリーがよくできているからだ。誰の目から見てもはっきりわかる変化は、不採算の空港からの撤退だ。これまで政治的理由から利益にならなくても運航せざるをえなかった空港から撤退することでかなりの無駄取りができたはずである。残念ながら私の地元の神戸空港からは全面撤退になってしまった。インターネットで飛行機の予約をしているときに気付く変化もある。伊丹・羽田間のJAL便は朝から夕方までほぼ1時間に1便、全日空と組み合わせると30分に1本だ。この頻度の高さが航空便の価値を高めている。また、かつてはほとんどすべての伊丹・羽田間の便にファーストクラスの設定があったが、最近は、ファーストクラスの設定のない便が増えてきた。とくに昼の便にそれが多い。ファーストクラスの設備のあるのは大型機である。昼の間は乗客数が少ないので、小型の機材が使われるようになっているのだ。

新聞報道によれば、アメーバ経営が導入されて、便ごとの利益がすぐに把握されるようになったという。便ごとの収益を見れば、どの便で経費の節減が必要かが見えてくる。経費節減のもっとも単純な手段は、少ないクルーで運航できる小さな機材を使うことである。便ごとに機材が変わり始めたというのは、アメーバ経営のおかげではないかと私は見ている。

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