1億9000万円もかけたのに成果はほぼ「ゼロ」

また共同研究に参加した大手化粧品会社が、JAXAがデータの科学的妥当性を吟味する前に結果を2018年に先行して発表。その際に自社の商品紹介もしていたことが判明した。JAXA内では、商品の宣伝に使われたのではないか、という見方も出たという。

25日に記者会見した佐々木宏・JAXA理事は、「研究不正以前に、研究計画が稚拙で、科学合理性がなかった」と話した。

あまりのお粗末さ、ずさんさに愕然とさせられるが、この研究には5年間で、JAXA予算から9500万円、文科省の科学研究費補助金(科研費)から9600万円、計1億9000万円が使われた。どちらも原資は税金だ。

佐々木理事は記者会見で「研究成果も公表できない事態になった」と謝罪。不正が行われた精神心理関係部分のデータや論文などは発表しないという。

肝心な部分のデータが使えない以上、成果は限りなく「ゼロ」に近い。

JAXAは「古川飛行士が直接不正をしたわけではない。他のメンバーがやったこと」と釈明する。責任者としての監督責任はあるが、古川飛行士は多忙なため研究全体の管理やチェックができず、不正に気付かなかったとしている。ただ、研究全体を統括する代表者でありながら、古川さんは記者会見に出席せず、コメントすら出さなかった。

自ら説明する必要があるのではないか

JAXAは、古川さんなど関係者を近く処分するという。だが、「管理者としての能力と、宇宙飛行士の能力は別」として、来年に予定されている古川さんの宇宙飛行は予定通りに行うという。

飛行のチャンスが限られる中、訓練を続けてきた努力を思えば、飛行実現が望ましいとはいえ、宇宙滞在中には国内外の研究者から託された数々の宇宙実験をする立場でもある。このまま何事もなかったように飛行し実験を行う、というのでは、国内外の研究者はもとより、多くの人は、すんなり納得できないだろう。

宇宙飛行の訓練では、飛行士が急病やけがなどで飛行できなくなった場合に備え、バックアップ飛行士も同じ訓練をする。代わりに飛行する人材がいないわけではない。

古川さんが予定通り飛ぶというのならば、自ら説明する必要があるのではないか。

気になったのは、この研究には科研費も使われていることだ。近年、国の研究費は大型化、集中化とともに、実用化重視の傾向にあり、若手研究者が自由な発想で研究できる予算を獲得しにくくなっている。

そんな中で若手にも門戸が開かれているのが、科研費だ。