事業内容や売り上げによって税負担の金額は異なるが、これまで免税事業者だった人がインボイス登録した場合には重い負担増となることは間違いない。

免税事業者にとって「益税」だったのか

これに対しては「これまで払うべき消費税を払わずに『益税』としていたのだから払うのは当然だ」という意見がよく聞かれる。しかし、この批判は的外れだと言わざるをえない。

長年にわたり飲食店を経営してきた経験を持つれいわ新選組の多ケ谷亮衆院議員は語る。

「そもそも『益税』という指摘が見当違いです。益税とは『消費者から預かった消費税を納めずに儲けている』という意味ですが、そもそも消費税は消費者が支払っているわけではないからです。消費税は消費者からの『預かり金』による『間接税』ではなく、財務省も『預かり金的性質』だと言っている『直接税』なのです。事業者が支払う第二法人税的な性質の税金です。ただし、法人税であれば赤字企業は支払わずに済みますが、消費税は従業員の給料にもかかってくるので赤字企業でも支払うことになり、事業者にとっては『重税』なのです」

消費税という税制自体があたかも「消費者が納めている税」のように見せているものの、その実態は事業者が納税義務を負っている事業者税の性質なのである。国税庁の発表によると令和3年度の租税滞納状況では新規滞納額7527億円のうち53%が消費税であり、事業者にとっていかに重い税であるかがうかがえる。

消費税導入当初は「課税売上高3000万円以下の事業者は免税」としていたが、平成16年からはこれが「課税売上高1000万円以下」と課税対象が拡大されている。インボイス制度ではその「課税売上高1000万円以下」の免税事業者も課税対象にするというのである。

左手では電卓を使用しながら、ノートパソコンを使用する女性の手元
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財務省が進める「消費増税」への布石

インボイス制度の導入を進めるのは財務省だ。導入の理由の一つが課税事業者の拡大にあることは明白だ。財務省はこれにより2480億円の増税を見込む。事実上、零細事業者を狙い撃ちにした増税である。

ただ、これだけの大きな変化を伴う制度の導入をするためとしては得られるものが少なすぎる。今年度の本予算は107兆円、第2次補正予算だけで29兆円もの巨額に及んでおり、2000億円程度の税収増など焼け石に水だ。その点を考慮すると、本当の狙いは財務省の悲願である将来的なさらなる消費税増税にある可能性が高い。

消費税収は10%に引き上げられたことで令和2年度には20兆円を越す最大の税収源となっている。財務省が景気に左右されにくい「安定財源」となる消費税をさらに引き上げたいと考えるのは自然な発想だろう。その前にインボイスによって課税対象を拡大しておくということだ。その点で見逃せないのがインボイスと同時期に導入が決まった「軽減税率」である。