軽減税率がインボイス導入の口実になった

インボイス制度導入の目的は益税の解消であるわけですが、それにしてもなぜ、いま法改正が行われるのでしょうか? それこそ益税の問題があることは、消費税が導入された30年以上前からわかりきっていたことなのです。

実はインボイス制度導入に大義名分を与えたのが、2016年10月に消費税が10%に引き上げられた時に公明党が訴えて実現した「軽減税率」でした。

軽減税率は食料品など生きるために必要なものは税負担を減らすためのもの(現在8%)ですが、これによりインボイスで「これは8%で仕入れて、これは10%で仕入れた」と消費税の内訳を記載する必要が出てきました。

スーパーマーケットで買い物をする男性
写真=iStock.com/Minerva Studio
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財務省はもともと軽減税率には反対で、当時の自民党の税制調査会は2度突っぱねています。税収が減るのだから当然でしょう。これを3回粘って押し通したのは公明党なのです。公明党は弱者救済を看板にしているのでどうしても軽減税率を導入したかった。3度目の提案の時には「今度突っぱねたら政権を離脱します」とまで言ったのです。

しかし、弱者救済のために導入した軽減税率によって、年間売り上げ1000万円以下の免税事業者が苦しむことになるインボイス制度が導入されたのですから、なんとも皮肉な話です。

お勧めは簡易課税制度を選択すること

さて、苦境に立たされている免税事業者はこれからどうしていくといいのでしょうか。

私がお勧めしたいのは、取引先から適格事業者の登録について問い合わせがあった時点で、今までも課税事業者であったかのように振る舞い、黙って適格事業者の登録をした上で「簡易課税制度」を選択することです。

課税事業者になると、消費税を納めるための事務手続きが増えます。仕入れにかかったものについて消費税の課税対象か一つひとつ判定しなくてはいけなくなるのですが、これが手間なのです。しかし、この手間が省けるのが簡易課税制度です。

基準期間の課税売上高が5000万円以下の事業者なら選択することができる制度で、実際の課税仕入額を一切考慮せずに、“だいたいこのぐらいだろう”と業種ごとに決められた“みなし”の割合で仕入税額控除ができるようになります。現実の仕入額を考慮しないということで、インボイスの保存もしなくてもいいということになり、事務作業も楽になるでしょう。