国内感染者1人の段階で「コロナ担当」を設置

【村井】サッカーもスタッツ(統計)を使ってサイエンスで徹底的に選手のプレーをデータで見たりする。一方でファンタジスタみたいなプレーヤーはそういうものでは説明できないワクワクするプレーで熱狂を生んだりするんですね。常に主観と客観のバランスが大切です。

――その熱狂に水を差す事態が2020年に起きました。

【村井】新型コロナウイルスの感染拡大ですね。Jリーグは国内感染者がまだ1人のタイミングだった1月22日には全クラブに「コロナ担当」の窓口を置くことを決めています。大きく報道されたクルーズ船接岸前の段階です。極めて早いタイミングで準備を進めたことで、クルーズ船乗客の感染が大きく報道された2月8日の土曜日に開かれた、Jリーグの新シーズンの開幕を告げる大会である「FUJI XEROX SUPER CUP(現FUJIFILM SUPER CUP)」は無事に終えることができました。

リーグ戦開幕前日の2月20日に第1回の緊急ウェブ会議を開いてJリーグが開幕に向けた最終確認を済ませ、21日からJ1、J2の開幕戦はすべて問題なく開催しました。このころには全クラブで消毒液やサーモメーター、スタッフのマスクなどの手配はすべて済んでいたのです。

しかし、コロナに関する状況が刻々と変わる中、25日に3回目の緊急ウェブ会議を招集して「第2節以降の試合延期」を決めています。

「サポーターと一緒にJリーグを運用したい」の真意

――政府がスポーツイベントの自粛を呼びかけるより1日早い。つまりJリーグは政府からの要請ではなく、自らの判断で試合を止めたことになります。

【村井】「国民の心身の健全な発達」を理念にうたっているわけですから。ここは国民の安全を第一に考えなくてはならない。

もう一つ、理念には「豊かなスポーツ文化の振興」とある。この「文化」というのは個々人の主観が集合したものですね。条例で「サッカーを観なければならない」と義務付けられているわけではないので、一人ひとりのファン・サポーターが「いいね」と思ったものが集合して初めてスポーツ文化ができてくる。

私がコロナ対策の時の記者会見で「ファン・サポーターと一緒にJリーグを運用したい」と言ったのは、この「文化」という言葉が頭にあったからです。無観客、リモートマッチで開催せざるを得ない時期もありましたが、その頃から私は政府や行政サイドにずっと「お客さまを危険にさらさないように努力するから、お客さまと共にやらせてほしい」と働きかけてきました。