大手が手を付けないニッチ分野に小規模農業者がひしめく時代

現代の日本の農業における競争環境をまとめると、以下の通りです。

・市場が右肩下がりで縮小している
・生産のモジュール化が進み、スケールメリットが利く分野の産業化と集約が加速している
・PDCAサイクルが年単位で、習熟に時間がかかる
・商品の本質的な差別化が難しい

いずれも、新規参入者に不利な条件です。

農産物市場の今後を大胆に予測すると、スケールメリットが利く分野では集約と経営体の規模拡大が進み、一方で大手が手を付けない分野に腕自慢の規模の小さな農業者がひしめき合う、という構造が想像できます。いわゆる二極化です。

この中で、新規参入者が生き残るために戦略上取りうる道は理論上二つしかありません。

①勝てる戦略を磨き抜いた上で、経営資源を調達して短期間で大きなプレイヤーを目指す
②大手がやらないことを次々に拾い続けて、のらりくらりとしたたかに生きる

どちらも簡単ではありません。

一般に、規模の経済が働く状況では、新規参入は起きにくくなります。農業の世界で言えば、いち早く集約が進んだ畜産などにその傾向が顕著に表れています。他の業態でも、今後は集約と参入の減少が進むことに疑いはありません。夢を持つことは大事ですが、産業全体の状況の中でそれをどのような形で成立させるか、を同時に考えなければ、いとも簡単に吹き飛ばされる大競争時代に入っている、というのが私の実感です。

片手間にできるほど農業は甘くない

ところで、農業に参入する人は、したたかな戦略を描いて時代を力強く泳いでいく起業家タイプばかりではありません。むしろ都会での競争を降りたい人の方が多い印象です。恥ずかしながら私も最初はそうでした。始める前は農業なら8割くらいの力で食っていけるだろう、とたかをくくっていましたが、とんでもありません。120%の力を出し続けてようやく生き長らえる、という状態がずっと続いています。こんなにしんどいと分かっていたら。いや、それ以上は言いますまい。

新規就農者には手厚い助成が用意されています。もともとは、純然たる農外からの参入のために考案されたものですが、全国のクレクレ農家の圧力を受けて、支給対象は農家の子弟にも広がり、要件は年々緩くなっています。

実施主体の農水省や地方自治体は、支給対象の選定プロセスは厳格だ、と口を揃えますが、実態はザルです。何も分からない農業希望者が、「親切な」窓口の行政担当者に教えてもらいながら、芯がなくなるほど鉛筆をなめて書類を書いています。提出された経営計画を何度も見ていますが、実現性の低い杜撰な内容ばかりでした。