管理・修繕費、水道高熱費、固定資産税、そのうえ…

父親とは別に生計を立ててきたAさんが思わぬ資産に気がついたのは、郵便ポストに入った1通の封筒がきっかけだった。「管理費等が指定口座から引き落としできませんでした」。読み進めると、月額約3万円の管理費と約1万3000円の修繕費を2カ月分滞納していることが理解できた。Aさんに秘密で購入していた父親は生活費用の銀行口座とは別の口座を指定しており、要介護認定された半年前から管理費の分を移動させることが困難になっていた。

「あのマンションは自分が『もう死ぬかもしれない』という時のために買っていた。でも、熱海に住めば今の通院先に向かうことが大変になる。もう俺は年金生活者になったから、あとは頼む」。父親から一方的にこう告げられたAさんには当初、「海が近く、夏は最高。娘たちが大学生になったら友達と行くのも良い」と喜びを見せる余裕もあった。

東京駅から東海道新幹線で約45分と近い熱海は、若者から高齢者まで人気でその物件価格は上昇している。国民の平均年収約433万円を若干上回るレベルのAさんにとって、別荘保有者になることは夢にも描いていなかったことだ。しかし、この段階では相続したわけではない。「あとは頼む」とは、Aさんが維持・管理をしていくことを意味した。

バブル時代に建築されたマンションは、サウナや温泉大浴場があるなど豪華な造りが魅力的だが、その維持費は高い。4万円を超える管理・修繕費に加え、水道など光熱水費は使用量がゼロであっても1カ月当たり9000円超、固定資産税は年間約14万円もかかる。加えて、熱海市は「別荘等所有税」を徴収している。

昭和51年に導入された独自の税で、延べ床面積1平方メートルにつき年額650円が課税される。建物の共有分も案分して課税対象になるため、課税床面積は約90平方メートルで税額は約6万円に上り、市民税や県民税も加算される。火災保険料などを含めれば、1カ月あたり7万円超の維持費が必要となる計算だ。

相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算される

不動産情報サイトによれば、この中古マンションは1000万円弱で販売されている。さすがに年間100万円近い維持費を払い続けることは難しいと考えたAさんは、相続後に売却するつもりであることを父親に伝えた。知人の税理士は相続税対策として不動産贈与も選択肢になるという。

ただ、Aさんの頭に浮かんだのは父親の「寿命」だった。2年前に肺ガンが見つかり、医師からはそれほど長くは生きられないとの宣告を受けていたのだ。

生前贈与は相続税の課税対象を減らすことにつながるが、相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算され、「相続税逃れ」も疑われかねない。平均的なサラリーマンを自認するAさんは税務署に痛くもない腹を探られるのを嫌い、結局、維持費を払い続ける道を選択した。