夜中3時ぐらいにこっそりと寮を抜け出して……

大学や実業団の強豪チームは寮生活となり、食事も提供される。その食べ方まで口出しする指導者は多くない。一方で、体重チェックは高校時代のように続く。

ある大学チームでは朝練習の前に体重チェックがあった。ベスト体重から「600g」増えると指導が入ったという。問題は月曜日の朝。日曜日は練習が「休み」となるため、月曜日の朝は体重が増えていることが多いからだ。

せっかくの休日も選手たちは気持ちが休まることはない。月曜日の朝に向けて、各自が体重調整をすることになる。夕方、サウナに行って汗を出す選手もいるという。それでも体重が減っていない場合はどうするのか。夜中3時ぐらいにこっそりと寮を抜け出して、ランニングやエアロバイクで体重を落としてから、朝練習に参加する選手もいるのだ。

靴紐を結ぶランナー
写真=iStock.com/dusanpetkovic
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ある元選手は、「測定をクリアするために、ご飯を食べなかったり、サプリメントを飲むための水をどうするか考えたりすることさえありました」と明かす。体重の数字は常に女子ランナーを苦しめていた。

実業団でも同じような体重チェックが続くため、悪夢は終わらない。1週間ほどのフリー期間があると、その間に体重が爆上がりして、そのままチームに帰ってこなくなる選手も出てくる。

体重チェックが厳しいため、ある元選手は、「体重を減らしてオリンピックで金メダルを取れるなら体重を減らします」と指導者に反発したことがあるという。指導者に意見できる選手はまだいいが、大半の選手は指導者の言いなりだ。

過酷な体重制限はランナーたちを徐々に蝕んでいく。

日本代表として世界大会で活躍した元選手は大学時代に過食嘔吐に悩まされていた。寮はトイレが共同のため、嘔吐すると他の部員にバレる可能性がある。その選手はジャージのなかに食べ物を隠し持ち、各自ジョグのときに無理に口に押し込んでは吐く、過食嘔吐を繰り返していたという。その選手が走った後には、嘔吐物があるため、仲間は知っていたのだ。

だからといって改善されることはなかった。その選手は実業団に進むも、ほどなく陸上界を去った。今回、その選手のかつてのチームメイトはこう憤っている。

「女性の体だから1~2kgは変動するじゃないですか。それすら許されない雰囲気があるんです。無理に押さえつけようとするから、それが大きなストレスになるんです」

体重チェックには比較的苦しまなかったという別の元選手もこう話す。

「引退した今でも体重測定は夢に出てきます。水を飲んじゃったという罪悪感で、深く眠れない日もありますね。常に体重を気にして、生活しないといけないので爆発するのも早い。そういう生活は何年ももたないですよ」