学力と運動の絶対的な関係

運動が子どもたちの基礎的な学力――いわゆる「読み・書き・計算」の力を伸ばすことがはっきりと立証された場所は、アメリカのアイビーリーグの名門大学ではなく、スウェーデン南部スコーネ地方のブンケフロという町の小学校だった。

調査の対象となった2つの小学校では、時間割に体育が毎日組み入れられた。また比較のため、通常どおり体育を週に2回行うクラスも設けられた。

体育の授業の回数以外、条件はすべて同じだった。居住区も学校も授業内容も、みな同じだ。結果はどうだっただろうか。

まず、毎日体育の授業を受けた生徒は、週に2回の生徒よりも体育の成績がよかった。これは当たり前の結果だ。予想外だったのは、この生徒たちが特別な指導を受けたわけでもないのに、算数や国語、英語でもよい成績を取ったことである。しかも、その効果は何年も続いた。

ただ体育の授業を増やしただけで、生徒のほとんどが優秀な成績で学校を卒業したのである。

また、この効果は、男子生徒に目立って現れた。学校の成績はたいてい女子が男子を上まわるものだが、体育が毎日行われたクラスでは、男女差はまったく見られなかった。このような目覚ましい結果をもたらした学習メソッドはそれまでなかった。

「太った子どもは頭がよく、わんぱくな子どもは頭が悪い」の嘘

運動と学力の関係が明らかになったのは、スコーネだけではない。アメリカの研究チームも、小学校3年生と5年生、計250名を対象にした調査を行い、同じ結果を得ている。

科学者たちは生徒の体力を正確に把握するために、心肺機能、筋力、敏捷性を計測した。その結果、体力のある生徒たちは、学業においてもすぐれていることがわかった。

この調査においても、結果は明らかだった。体力のある生徒は、算数と読解の試験で高得点を取った。しかも体力的にすぐれていればいるほど、得点も高かった。

ところが肥満気味の生徒には、別のパターンが見られた。体重が重いほど、試験の得点も低かったのだ。俗説では「太った子どもは頭がよく、わんぱくな子どもは頭が悪い」といわれるが、それが根拠のない偏見に過ぎないことが証明されたわけである。

この250名の生徒の結果だけで、あるいはスコーネの2校の結果だけで結論を下すのは気が早いだろうか。

アメリカのネブラスカ州では1万名に近い子どもたちを対象にして、これと同様の調査が行われている。ここでもやはり体力的にすぐれた子どもは、体力のない子どもより、算数や英語の試験の得点が高かった。

だが肥満――アメリカでは深刻な問題だ――の傾向にある子どもに、とくに差は見られなかった。肥満児の成績は、標準体重の生徒に比べてとくによくも悪くもなかったのである。

全国調査から読み解く「頭がいい子」になる条件
出典=『運動脳

では、なぜ子どもが運動すると、数学や国語の学力が上がるのだろうか。

本書の記憶力に関する章で述べたとおり、大人が運動すると海馬(記憶の中枢で感情の制御もしている部位)が成長する。子どもでも、これと同じことが起きるようだ。

10歳児の脳をMRIでスキャンしてみると、体力のある子どもは海馬が大きいことがわかった。つまり、子どもでも身体を鍛えれば、脳の重要な部位である海馬が大きくなるということだ。これは、体力のある子どもが記憶力のテストで高得点を取ったという調査結果とも一致する。

つまり身体のコンディションが良好だと海馬が成長し、さらに子どもの記憶力をはじめとする学力が向上するのである。

この分野において、とくに興味深いことがある。それは、試験の内容がもっと難しくなると、体力的にすぐれた子どもと体力のない子どもとの差がさらに開いたことだ。

簡単な記憶力の試験では、両者の得点にそこまでの差はなかった。だが、難しい試験になると、体力的にすぐれた子どもが大差で上まわっていたのである。