有効活用を求める冷静な声も

一方、前向きな受け止めも少なくなかった。

「設備をしっかり点検して整備をしてくれた方がありがたい」
「店頭でユーザーに怒鳴られて疲弊した店員さんに還元してあげて」
「正解はお金じゃないですよね」

障害発生から1カ月近く経って、当時の怒りもいささか冷め、落ち着きを取り戻した人たちもいたようだ。

「1人200円程度の返金なら、総額をもっと有効に活用してほしい」というささやかな願いが見てとれる。

通信ネットワークが利用できなくなる障害そのものが起きないようにすることが何より重要で、発生した障害に利用者の納得が得られるような補償をするのは二の次であることを、利用者もよくわかっているといえる。

行政指導を受けたKDDIの高橋誠社長は「障害を限りなくゼロに近づけられるよう、再発防止に取り組む」と語ったが、言わずもがなことだろう。

総務省は、11月11日までに具体的な実施状況を報告するよう指示したが、再発防止に向けた出費は75億円程度では済みそうにない。

影響は延べ3000万人超…原因は「人為的ミス」

通信障害の事情や経緯を、KDDIの説明から、あらためて再現してみる。

7月2日午前1時35分、東京都多摩市のKDDIの施設で、異常を示すアラートが表示された。通信ネットワークの要である「コアルーター」の機器交換をした際、古い手順書を誤って使うという「人為的ミス」が起き、音声通話もデータ通信もつながりにくくなった。これにより、回線が渋滞する「輻輳ふくそう」が発生し、利用者情報を管理するデータベースも連鎖した。このため、通信量を規制しながら復旧させしようとしたが、新たな異常が見つかり、障害は解消するどころか、全国に広がってしまったという。

まぁ、こんなシステムのトラブル事情を聞いても、きちんと理解できる人はほとんどいないだろう。

大半の利用者にとって最大の関心事は、「いつになったら、スマホが普通に使えるようになるのか」だった。

丸1日半経った3日午後5時ごろ、ようやく復旧作業が終了したが、実際には接続制限を続けたためつながりにくい状態が続いた。KDDIが「音声通話・データ通信ともに全国的にほぼ回復した」と説明したのは、障害発生から約61時間後の4日午後3時。スマホは、ようやくスムーズにつながるようになった。しかし、なお、正常化の検討作業が残り、「完全復旧」を確認したのは5日午後3時36分。障害発生から86時間、丸3日半余が経っていた。

小雨が降る中歩く若い女性は、右手に傘、左手にはスマホを持ち画面を確認している
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