なぜ知らない街を歩き回るのは楽しいのか。脳科学者の毛内拡さんは「私自身、気分が落ち込んだときに、近所の知らない街をひたすら歩き回ることがある。これは脳科学的にも『ストレス解消』として正しい行動といえる」という――。

※本稿は、毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。

脳内に電球が光っている図
写真=iStock.com/ThomasVogel
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「立ち直りが早い人」と「遅い人」の違い

人によっては、嫌なことがあってもおいしいものを食べて一晩経つとケロッとしていることもあれば、いつまでもクヨクヨとして、なかなか立ち直れない人もいます。これもある意味では個性で、どちらが良いとはいえませんが、このような違いはどのようにして生まれてくるのでしょうか。

くじけない心の働きは、レジリエンスとして知られています。つまり、人はバネのように戻る力を持っているということです。

ストレス社会を乗り越えるための秘訣ひけつとして、レジリエンスを高めることが謳われていますが、このレジリエンスというのは脳のどのような働きなのでしょうか。その答えはまだはっきりとはわかっていません。

ストレスというと悪いもののように聞こえますが、決してそうではありません。一定であることを好む生物本来の原理からすれば、体が応答する必要のあるものはすべてストレスということになります。

ちょっとしたトラブルが記憶に残る脳科学的理由

極端にいえば、光が見えるとか音が聞こえるというのもストレスという言い方をすることがあります。体はそれに即座に対応して、また何事もなかったかのように戻す、あるいは次にそれが来た時に素早く対処できるように体を作り替える「適応」を行ないます。

脳にしてみると、新しい環境や未知の刺激は、命の危険を伴いかねない“ストレス”の一種です。このような状況の時は、ノルアドレナリンの放出が高まり、脳をフル回転して、覚醒状態を高め、記憶を総動員して現在の状況に対応し、この状況をしっかりと学習して次に備えようと努めます。

総じて、脳が活性化状態になるということです。たとえば、初めて海外旅行に行った時に食べたものや、ちょっとしたトラブルに見舞われた時のことはいつまでも忘れずに記憶に残っているのも、このような脳の働きによるものです。

つまり、短期的なストレスは、脳にとって良いことなので、脳の健康のためにも、正常な発達のためにも、積極的に新しいものを求めて外に出ていくのがおすすめです。