市販の鶏肉は7割近くが汚染されている

鶏自体は、カンピロバクターに感染していても症状が出ず、農場での感染防止は容易ではありません。それに、食鳥処理場での毛抜きや内臓の除去、洗浄等の段階で、ほかの肉に菌が広がる場合もあります。

市販の鶏肉の汚染率は調査によってまちまちで、20〜100%という結果。7割近くは汚染されている、という見方が有力です。そんな肉を十分に加熱殺菌せず食べれば、感染して当たり前です。

店によっては「新鮮だから安全」と言うところもありますが、これは明らかな間違い。カンピロバクターは数百個というわずかな菌数を口に入れると発症しますので、新鮮でも菌が付いていればダメです。

また、「新鮮な方が危ない」と主張する人も最近いるのですが、これもそう簡単な話ではありません。たしかに、カンピロバクターは酸素をあまり好まない菌で、肉に付いた菌が酸素に触れていると死滅してゆきます。

しかし、研究が進み、酸素が多い環境下ではバイオフィルム(細菌が糖類やたんぱく質などを菌の外に分泌し、集まって身を守るメカニズム)を作って生き延びることがわかってきました。鶏ムネ肉やモモ肉は形状が複雑でひだも多く、バイオフィルムなども生かして生き延びるカンピロバクターがいます。

それに、ほかの菌が肉に付いていると、日数がたつにつれて多くは増殖します。鶏肉の生食は、新鮮であっても日数がたっていても危ないとしか言いようがありません。

鹿児島、宮崎には生食用基準がある

ではなぜ、国はこんなに危ない鶏肉の生食を禁止しないのか? 牛レバーや豚肉・内臓の生食は禁止しているのに? よくそう尋ねられます。正確に説明すると、国が食品衛生法に基づきこれらについて禁止しているのは、生食用として販売・提供すること。しかし、鶏肉の生食提供については、禁止していません。

理由は複数あります。まず、カンピロバクターの食中毒では直接の死亡例がありません。牛レバーや豚肉・内臓の食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌やE型肝炎は死亡例がありますが、カンピロバクターはそこまでのリスクには至らない、とみなされています。また、南九州では鶏刺しや鶏たたきが食文化として親しまれています。国としては全国一律の規制には踏み出しにくいのです。

とはいえ、南九州の鶏肉生食とほかの地域での生食は、中身がまったく異なることは知っておくべきでしょう。鹿児島県宮崎県は、鶏肉について生食提供用の目標基準を定めています。食鳥処理場での加工、飲食店での調理、保存、運搬など、細かいルールに従ってできた鶏肉が、生で提供されているのです。