JR東に対抗したい大田区の算段

実際、2期整備は不透明な情勢だ。2014年にJR東日本が発表した「東山手ルート」「西山手ルート」「臨海部ルート」の3つのルートからなる「羽田空港アクセス線」構想では、西山手ルートが新宿から羽田空港まで約23分で直通するとしており、東横線内に約10分、京急線内に約10分を要する新空港線ルートでは太刀打ちできない。

東山手ルートは2021年に事業許可を得ており、2029年度の開業を予定している。西山手ルート、湾岸部ルート計画は具体化していないが、蒲蒲線1期整備が完了する2030年代後半、空港直通が実現する2期整備より早く開業する可能性が高く、その場合は開業を前にして整備効果の少なくない部分が消えてしまうことになる。

だからこそ大田区は1期整備の実現を強く推進した、と考えるのは穿うがちすぎだろうか。「新空港線」という大義を掲げながら、実際には区内を発着する利用が中心の「蒲蒲線」は、空港アクセス改善の必要性が低くなれば「蒲蒲線」ごと計画が消えてしまう可能性がある。

羽田空港ランプ
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです

それを示唆しているのが、2004年5月17日の大田区議会交通問題調査特別委員会における交通事業課長の説明だ。当時、大田区は東急と京急の接続方法を5パターン想定し、そのうち効果が低いと判断されたパターン3、パターン5を除いた3つのケースを検討対象とした。

過去にボツになった案を復活させてでも実現したい

ケース1は蒲田から大鳥居駅の直下まで東急多摩川線を延長する形で建設し、大鳥居駅で京急線に乗り換えるという案。ケース2は東急線、京急線ともに京急蒲田駅地下まで延伸し、同じホームで乗り換える案。ケース3は東急多摩川線蒲田駅を地下に移転した上で、京急が蒲田まで乗り入れ同じホームで乗り換えする案だった。

実はこの時除外された「パターン3」こそが今回の1期整備の形であった。交通事業課長は「東急線を延ばしてきて、京急蒲田で止めてしまう。それで京急蒲田で今の連立のほう(2012年に連続立体交差事業により高架化した現在の京急蒲田駅のこと=筆者注)に乗換えるということで、これは利用者からいってもちょっときついだろう」と説明している。

もちろん永続的な接続方法として検討されたパターン3と、暫定的な接続となる一期整備は事情が異なる。また、今回の検討にあたっては京急蒲田駅の乗り換え利便性を重視し、新たなバリアフリールートを整備するなど2004年とは情勢が異なる点も多い。

それにしても2期整備の目途が立たない中で、かつて除外した接続方法による先行整備を選択した背景には、蒲田―京急蒲田間を接続させ、区内の分断解消を最優先課題と考える大田区の執念のようなものを感じるのである。

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