食糧価格の高騰は大きな政変を招いてきた

言い換えれば、新型コロナウイルスのパンデミックは人々の防衛本能を高めた。世界全体で本能的に、命を守るために接触を避けようとする人が増えている。そのため、鈍化してはいるものの緩やかな景気回復を維持している米国でさえ労働参加率の回復が遅れている。農業現場の人手不足の解消には時間がかかり、食用油などの需給は逼迫した状況が続きやすい。

3つ目として、ウクライナ危機の発生が食料不足に拍車をかけた。一部の国や地域では、食糧危機の発生懸念が急速に高まっている。世界最大の小麦輸入国であるエジプトは、8割の輸入を頼ってきたウクライナとロシアからの小麦供給が急減し、パンの価格が急騰している。

見渡す限り続く黄金の小麦畑と青い空
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リーマンショック後に中東地域に急速に広がった“アラブの春”と呼ばれる民主化運動の際、エジプトではムバラク政権(当時)が崩壊した。その引き金の一つとなったのが、パン価格の上昇だったと言われる。エジプト政府はパンの安定供給を目指してロシアやウクライナ以外の国や地域からの小麦輸入を増やそうと必死になっているが、事態は深刻だ。

脱炭素で注目の「バイオ燃料」にも影響が

世界全体で食料不足は深刻化し、小麦などの穀物や野菜、果物、肉類、食用油などの価格は追加的に上昇するだろう。ピークアウトした後も高止まりが予想される。食料の供給はかなり不安定な状況が続く。異常気象などに加えて、農作物の利用方法が変化している。

例えば、ブラジルではバイオエタノール生産のためにより多くのサトウキビが使われるようになった。脱炭素のためにバイオ燃料需要が増えているのだ。それによって砂糖の供給は減少し価格に上昇圧力が加わりやすくなった。ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策の長期化懸念も大きい。黒海の封鎖によってウクライナからの小麦輸出がどうなるかは見通しづらい。ロシアからの原料供給の減少によって世界的に肥料価格も急騰している。