「これくらいの使い勝手があれば十分だろう」という声も

テレビマンの中に「TVerは在京キー局と在阪準キー局の番組を集約した便利な“まとめサイト”だ」というイメージで甘く見る人がいることも指摘しておきたい。

「無料で各局の番組を網羅してるのだから、これくらいの使い勝手があれば十分ではないか」という感覚の人がいるのだ。TVerが十分な収入を上げられるようになるまで、テレビ局はこのような感覚の人を一掃できないのかもしれない。

しかし、TVerのユーザーは「テレビファースト」ではなく「ネットファースト」の生活を送る人々であり、テレビマンが思っている以上にインターフェースを見る目はシビア。

長くメディアのトップに君臨してきたテレビマンの甘さを許してはくれず、今回のような批判につながってしまう。

批判を招いた要因② まだネット配信だけでは十分に稼げない

ビジネスモデルという意味での不自由さもまだまだ存在している。周知の通り、テレビは放送で広告収入を得てきたのだが、その売り上げが減ったから「すぐにビジネスモデルをネット配信との2軸に変えられるか」と言えば、極めて難しい。

実際のところ、「配信による収入が増えている」と言っても、「地上波の広告収入と比べたら、わずか数%程度しかない」という厳しい現実があるからだ。

稼げない以上、NHKのように人材と金を大量投入することもできないため、「放送と配信の2軸」ではなく、「放送が主で配信が従」という状態からなかなか抜け出せない。

いまだ放送での広告収入に頼らなければいけないから、TVerへの取り組みにも甘さが出てしまうのではないか。

ちなみにTVerを見ているとテレビ局の自社CMの多いことに気づくはずだが、これは「まだ思うようにネット広告が売れていない」ことの証し。

TVerのCMが埋まらなければ、「いくらで売っていくのか」という基準すら定まらない不安定な状態が続き、企業サイドは出稿に二の足を踏むことになる。

自信満々の“同時配信”も効果は限定的

TVerを語る上で、触れておかなければいけないのは、11日にスタートしたばかりの同時配信。これによって、ゴールデン・プライム帯(19~23時)を中心に多くの人気番組がリアルタイムでネット視聴できるほか、放送途中でも番組の最初から楽しめる「追っかけ再生」や、自由にチャンネルを変える「ザッピング」も可能になった。

各局は同時配信を「見逃し配信再生数のアップ」「自社系列の動画配信サービスによるアーカイブ再生数のアップ」「それらを放送視聴につなげて視聴率アップ」「人気番組を増やしてグッズやイベントなどの収入アップ」などにつなげようとしている。

しかし、同時配信はあくまでベース機能にすぎないため、その影響力は限定的なものにとどまるのではないか。

各局はこの同時配信を大々的にアピールしているが、ユーザーの感覚としては「多少便利になった」という感覚にすぎないのがつらいところ。現在の人々が求めているのはリアルタイムの同時視聴ではなく、「好きなときに見る」オンデマンドであり、「同時配信より配信期間を1週間以上に延ばしてほしい」というのが本音だ。

テレビ東京がTVerのリアルタイム配信スタートを告知する「お詫び広告」で話題を集めたが、これも自虐の面白さにすぎない。もともと放送終了後に見られていた番組が30分から1時間程度早く見られるようになっただけであり、本当に喜んでいる人はそれほど多くないだろう。