「叱る人を叱る」のはなぜ役に立たないのか

また、安易な「叱っちゃダメ」というメッセージは「叱る人を叱る」発想になりやすいという問題もはらんでいます。「叱る=悪、だめなこと」という気持ちが強くあればあるほど、「叱っている人」を見るとそのことを許せない気持ちになります。そして、「叱っちゃだめでしょ! なぜそんなことをするの?」と叱る人を非難したくなるのです。

村中直人『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)
村中直人『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)

けれど考えてみてください。先ほど、叱っても学びや成長にはあまり役に立たないとお伝えしました。そう考えると当然、「叱る人を叱る」こともまた、あまり役に立ちません。相手に「叱る」ことをやめてもらうという、課題解決の効果は高くないのです。

こういった、単純で無邪気な「叱る」の否定がうまくいきにくいのは、なぜ叱らないほうがよいのか、その理由が誤解されていることが多いからなのです。

子育てや保育・教育・人材育成の現場にいる支援者、教育者、管理者は、テキストや講義、研修などを通じて繰り返し「叱っちゃダメ」と言われる機会があり、耳にタコができている人も少なくないかと思います。でも、本音では次のように思っているかもしれません。

「叱っちゃいけないのはわかる。叱られるのは確かにかわいそう。でも結局叱らないとわからないし伝わらない」
「叱っちゃダメなんて言う人は、現場のことをわかっていない。叱らずに済ますことなんてできない」

こういった考え方に共通しているのは、「叱ることには効果があるが、やらないほうがいい」という認識です。つまり、ここでもやっぱり「叱る」ことの効果が過大評価されているのです。しかしながらこの認識は誤りです。

効果がないのに弊害が大きい

「叱る」をできるだけ避けたほうがいい第一の理由は、倫理的、道徳的なものではなく、単純に効果がないからです。そして効果がないわりに、副作用としての弊害は大きいのです。

「叱る」とうまくつきあっていくためには、広く浸透している「叱る」への過信から卒業することが必要です。そのために、まずは「叱る」にまつわるさまざまなメカニズムを理解しなくてはいけません。

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