26歳の鈴木健吾選手は昨春にマラソン日本新記録を出し、一躍「パリ五輪の星」となった。3月6日の東京マラソンでもパフォーマンス日本歴代2位のタイムで日本人1位(全体4位)に。スポーツライターの酒井政人さんは「新記録を出して以来、周囲の期待というプレッシャーに押しつぶされ不調でしたが、ある同僚からかけられた言葉が心に刺さり、レースに挑む気持ちが復活した」という――。
鈴木健吾選手
写真提供=ナイキ
鈴木健吾選手

「パリ五輪の星」がまさかの日本新を出した後に失速

なぜ、日本人トップの4位に入った鈴木健吾(26・富士通)は泣いたのか。

東京マラソン2021で日本記録保持者(2時間4分56秒)の鈴木が激走した。第2集団でレースを進めると、中間点を1時間2分33秒で通過。このあたりから徐々に揺さぶりをかけていく。

「今回はあまり状態が良くなかったので、早い段階で勝負を決めたいなと思っていたんです。(第2集団の)ペースメーカーが最高で25kmと聞いていたので、そこをポイントにしていました。20~25kmの間である程度動こうと決めていましたし、ペースメーカーが外れた25kmで一気に勝負を仕掛けました」

鈴木は30kmまでの5kmを14分42秒で突っ走り、他の日本勢を引き放す。35kmまでの5kmも14分53秒でカバー。その後は向かい風もあってペースダウンしたが、パフォーマンス日本歴代2位の2時間5分28秒でフィニッシュした。

胸を張っていいタイム。日本人1位の順位。ゴール直後のインタビューでは笑顔が見られるはずが、「昨年、日本記録を出してから1年間、とても苦しかったんですけど、それを今日、乗り越えれたかなと思います」と話すと涙があふれた。

後続の日本人選手を2分以上も引き離す“完勝レース”を見せた鈴木健吾はなぜ男泣きをしたのか。