仕事のできる人は、言葉の端々にも気を遣っている。元防衛事務次官の黒江哲郎さんは「『だから』と『ですから』、そして『だったら』という『Dことば』は、相手に不快感を与えやすいので注意が必要だ」という――。

※本稿は、黒江哲郎『防衛事務次官 冷や汗日記』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

会議中の苦情者とビジネスマン
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防衛省全体の総合調整や各所との折衝に追われた官房業務

私は、自らのキャリアの半分に近い16年ほどを官房で勤務しました。

特に、文書法令業務、国会対応業務、情報公開業務、陳情対応業務、行事関係業務などが集中している官房文書課には、係員、先任部員及び課長として勤務する機会がありました。

防衛省は秋の自衛隊記念日を中心として様々な行事を開催しています。特に、陸海空の各自衛隊が毎年回り持ちで主催する観閲式、観艦式、航空観閲式はよく知られています。

官房文書課は、これらの行事において総理や防衛大臣、来賓の国会議員や民間招待者などのVIPヘの対応を担当します。当日までの間に開催部隊などとの間で綿密な調整を行い、細心の注意を払って準備をし、予行を経て本番に臨むのですが、それでも予期せぬトラブルが発生する場合があります。

官房業務は、「うまくいって当たり前で誰からも褒められず、少しでも失敗や不具合があると各方面から厳しく叱られる」という割に合わない仕事です。

苦労の結果に得た実用的なコミュニケーション技術

ネガティブな意味ではありません。天邪鬼な性格も手伝って、私はこういう仕事が決して嫌いではありません。むしろ大好きです。

組織を支える「縁の下の力持ち」的な仕事は苦労が多いけれど、やりがいも大いにあるからです。実際、仕事をこなすのには大いに苦労しましたが、それを通じてコミュニケーション技術を始めとして様々な実用的なスキルを身につけることができたのは思いがけない収穫でした。