年金収入の少ない親の介護費用はすべて子ども負担

とはいえ、介護が始まった頃、週末ごとに車で片道5~6時間をかけて、実家と自宅を往復するのは、精神的にも肉体的にも大変だった。

新幹線を使うことも考えたが、浩一郎さんの実家は主要駅から遠く、限られた滞在期間中に、さまざまな用事を効率的に済ませることを思えば、車を使うしかない。

もちろん、経済的な負担も重くのしかかる。

浩一郎さんの両親は自営業で、老後の収入は国民年金のみ。夫婦2人合わせても10万円くらいしかなく、預貯金は約300万円。2人分のお葬式代をまかなえるくらいだった。

結果、介護関連費用で両親の年金収入で賄えない部分は、浩一郎さんが負担することになった。

実家への帰省にかかる交通費や滞在費はもちろん、両親の在宅介護での介護サービスの費用、施設入所の費用、医療費、地元でお世話になっている親戚への心付けなど、介護保険でカバーされる部分もあるとはいえ、負担額はかさむ一方。とくに、母がグループホームに入所していた間は、月10万円以上かかっていた。

当時の浩一郎さんの年収は800万円程度だったが、自分たち家族の生活費や住宅ローン返済、中学生と高校生の2人の子どもの教育費などをまかなえば、余裕はほぼゼロ。

そのため、頭を下げて妻のパート収入を回してもらったり、子どもの学資保険を担保に貸付まで受けたりしたが、それでも足りず、会社の社内融資も利用せざるを得なかったという。

配偶者は、家族の予算チェック法案小切手
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「親の介護に後悔ナシ」でも大きな支障が生じた自分たちの老後生活

何とか落ち着いてきたと感じられたのは、両親が揃って同じ特別養護老人ホームに入所できて以降、亡くなる数年前くらいから。特養では、介護サービスや医療費がそれぞれ1割負担、居住費や食費は所得に応じて負担限度額認定を受けて、一人当たり月額約7~8万円かかる。公的年金で大部分まかなうことができたものの、足りない分の5~6万円は、浩一郎さんが負担し続けた。

父は2年前、母は去年亡くなったが、浩一郎さんは、介護をやりきった。責任を果たすことができたという思いで胸がいっぱいになったそうである。

「え? 後悔ですか? いやいや、長男として、両親の介護を全うできたことに後悔はありませんよ。でも、親の介護を10年やったことで、自分たちの老後の計画に支障が生じたのは確実です。ああ、そうですね。『こんなはずじゃなかった』とは思ってます(苦笑)。

35歳で結婚したときに30年返済の住宅ローンを組んでマイホームを購入したんですが、60歳の定年でもらった退職一時金で完済できませんでした。両親の介護費用に充てるため子どもの大学進学の時に借りた300万円の教育ローンもあるし、会社の従業員貸付制度を利用して200万円ほど借金しましたしね。そのため、まだまだ仕事は辞められそうにありません。本当は、定年退職したら、仲間と別のことをやろうと思っていたんですけどね」