中島健太氏の学生時代の模写「アンドリュー・ワイエス」変形サイズ
写真提供=Newsweek Japan
中島健太氏の学生時代の模写「アンドリュー・ワイエス」変形サイズ

「『完売画家』には中島さんの強い覚悟を感じた」

【山口】ところで、私も『完売画家』読ませていただきましたよ(笑)。前からそんな気はしていましたが、改めて中島さんは熱い人だなって思いました。

最初に話した美大特有の同調圧力の中に「お金に関する話はタブー」というのが根強くあるけれど、中島さんはそこに対する違和感を強く持っている。同調圧力が蔓延する空気の中で抵抗したり主張することの難しさというか、それをやっている人、やれる人が他にあまりいないから、強い覚悟を感じました。

【中島】覚悟と言うとかっこいいんですけど、僕にとってはもっとシンプルな話で、「30年後も今のままなら業界自体の存続が無理でしょ」という実感を持っているんです。

村人同士で顔色を窺いつつ、今のままではまずいことは、本当はみんな分かっている。みんな何かしないといけないと思っているのに、矢面に立つリスクは取りたくない。

そんな中で僕がずっと「このままじゃだめだ」と主張していると、「あいつはそういうキャラなんだ」というのが定着してきて、最初こそ打たれるんですけど、だんだんと打たれる杭になるどころか、賛同者や同調者が増えていって……。

最近で言えば、「ARTIST NEW GATE」という新人アーティストの登竜門コンテストを創設できました。実際はみんな何かをしなければいけないのは分かっているから、矢面に立つ人間と具体的なビジョンがあれば、人は結構付いてきてくれるのだと今は確信しています。

【山口】『完売画家』は、分かるなと共感する部分もあれば、自分と違う部分もあるという感じで読みました。中島さんはYouTubeで自分の収入を言ったりと、お金の話をすることに誠実に向き合っていて、それはすごい現代的だと思います。

食べていける人が少ない村社会の中で、いろいろ言われることもあると思いますが、私はこの本は重要な1冊だと思っています。

【中島】嬉しい!

【山口】アーティストがお金の話をするのは難しいと思いますが、中島さんは「こうすればアートで儲かる」みたいな話ではなく、生きてくためのコスト管理をちゃんと書いてくれています。

だからこの本があってよかったと思うし、大学の時に読んでたら、いろいろな意味でものの見え方が違っていたと思う。藝大や美大が話したくないことを隠さずに書いている、大事な1冊だなって。

隠さないとならないことがある業界は、今後は持たない。この本は誰もが変革が必要だと思ってるところに、必要な情報を提供していると感じます。