東京・歌舞伎町の「新宿TOHOビル」の周辺は、「トー横キッズ」と呼ばれる若者たちのたまり場になっている。そこでは何が起きているのか。歌舞伎町での取材を続けている佐々木チワワさんの著書『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)から一部をお届けする――。
歌舞伎町
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ルーツは自撮りを投稿する若者たち

「トー横キッズの専門家として、彼らの生態を教えてください」

2021年下半期、SNSやメディアで大きく騒がれた「トー横キッズ」。彼らは歌舞伎町の新たなシンボルとなったゴジラが吼える「新宿TOHOビル」(旧コマ劇場)、その東側の路地でたむろする若者たちのことだ。

歌舞伎町のセントラルロード中央に位置するTOHOシネマズ新宿が誕生したのは、2015年4月17日。旧コマ劇場跡地に建設され、ゴジラヘッドと呼ばれるゴジラと同じ高さに設置されたモニュメントから、「ゴジラ前」「TOHO前」などと呼ばれる歌舞伎町のシンボルとなった。

筆者が歌舞伎町に足を踏み入れたのは2015年末。彼らの存在を知り、交流を持ちはじめたのはその3年後からだ。最初に路上にたむろしはじめた初期メンバーと友達になり、時に彼らと飲むこともあった。そして今では彼らの経緯を知るライターとして、メディアで専門家的な扱いを受けている。では、トー横で生きる彼らは、一体どのようにして誕生したのか。

ルーツは、自撮りを投稿する若者たちのSNSにおける「#(ハッシュタグ)」からだ。2010年頃から女子中高生たちがSNSでかわいく撮れた自撮り写真を「#自発ください」というハッシュタグとともに投稿することがブームになった。自発とは“自分から発信する”の略であり、褒め称えるリプライやいいね!などがたくさん欲しいということをライトに表現していた。そこから「#らぶりつ」(いいね!&リツイートをください)になり、現在は「#1mmでもいいとおもったらRT」などをつけた投稿に変化。そうした自撮り写真を投稿する人たちを、「自撮り界隈」と呼ぶことがSNSに定着した。

そんな自撮り界隈の人間がオフラインで交流する際の待ち合わせ場所として指定されるのが、新宿TOHOビル前だったのだ。自撮り界隈には歌舞伎町で働くバーテンダーがいたことから、店が開くまでの0次会の場所になり、そこに歌舞伎町の住人であるスカウト、営業時間外の売れないホストも合流し、混沌とした路上飲みの場所になったのがそもそもであるとされる。