交渉上手な人は、どうやって自分の要求を通しているのか。交渉術アドバイザーのロジャー・ドーソンさんは「もし交渉期限が迫っていても、相手に伝えてはいけない。そうしたほうが相手から譲歩を多く引き出せる」という――。

※本稿は、ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

時間はお金です
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譲歩を引き出しやすいのは「残り2割の時間」

ヴィルフレド・パレートは、交渉における時間の要素を研究したことはないにしろ、パレートの法則は、時間が交渉に与える大きな圧力を明らかにしています。パレートは19世紀に活躍した経済学者です。パリに生まれ、人生の大半をイタリアで過ごした彼は、民衆に分配される富のバランスを研究しました。パレートは、著書『Cours d'Economie Politique(経済学講義)』(邦訳未刊)で、80%の富が20%の人々に集中していることを指摘しています。

80対20の法則の興味深い点は、一見すると関係のない分野でも繰り返し登場することです。営業マネージャーは、「売り上げの8割を2割の営業担当者が作っている」と言います。やがて彼らは、8割を解雇して2割だけを残すべきだと考えます。すると、80対20の法則が残したメンバーにも適用され、結局、同じ問題が発生します。学校の先生は、2割の子供が8割の問題を起こすと言います。セミナーでは、2割の受講生が8割の質問をします。

交渉では、8割の譲歩は最後の2割の時間に起こるという法則があります。交渉の初期に要求が提示されると、どちらも譲歩したがらず、取引全体が破綻する可能性があります。一方、交渉可能な時間の最後の2割に問題が表面化すればするほど、双方が譲歩することになります。

相手に交渉期限を明かしてはいけない理由

人と交渉するときには、決して期限があることを明かしてはいけません。例えば、ホテル開発会社との交渉を解決するためにダラスに飛んできて、帰りの飛行機が午後6時だったとします。もちろん、あなたはその便に乗りたいと思っていますが、他の人たちには知らせないでください。もし、午後6時のフライトを知っている人がいたら、午後9時の予備のフライトもあること、あるいは、お互いに満足のいく協定を結ぶために必要な時間だけ滞在できることを必ず伝えてください。

時間に追われていることがわかれば、相手は、交渉の大部分をぎりぎりまで遅らせるでしょう。そうなると、時間的プレッシャーの中で、あなたが何かを渡してしまう可能性が高くなります。

私のパワーネゴシエーション・セミナーでは、受講生が交渉の模擬練習をするように設定しています。15分という限られた時間の中で、いかにして合意に達するかを意識させています。ゆっくりと部屋の中を歩き回って交渉の様子を聞いていると、最初の12分間はなかなか進展しないことがわかります。両者ともに問題点を隠しており、ギブアンドテイクがほとんどありません。