メンタルの面でもパワーカップルは不利

将来を見据えた賢い夫婦のように映るが、田中さん夫妻のようなパワーカップルが株式投資に手を出す際はひときわ慎重になる必要があると、アレス投資顧問代表・阿部隆氏が話す。

「収入の高いパワーカップルは株式投資を始めたばかりにもかかわらず、リスク許容度が大きくなってしまいがちです。値動きの大きい銘柄に資金を集中させてしまうケースが多く、それにより大きな損失を出してしまうのです」

また、メンタルの面でもパワーカップルは不利な面があるという。

「パワーカップルは、仕事での大きな成功体験から、自分の判断を過信する傾向があります。そのパターンに陥ると自分のミスを認めることができず、ロスカット(損切り)に踏み切れないまま、含み損が拡大していってしまうのです。

さらに、仕事の忙しさから銘柄を発掘・分析する時間的余裕がない点も否めません。その一方で情報感度は高い。それゆえ、SNSなどで話題の人気銘柄に飛びつくなど、ネットに溢れる情報に翻弄されてしまうのです」(阿部氏・以下同)

パワーカップルが株で失敗する2大理由

田中さん夫妻も阿部氏の懸念する失敗例から大きく外れることはなかった。

輝之さんが配属されているのは、社内でエリートとされている人材が集まる部署だった。その慢心から、「正確で有益な情報が自分には集まってくる」という根拠のない自信に満ち溢れていたのだ。

毎月投資のために20万円を捻出していたにもかかわらず、どんどん目減りしていく資産に輝之さんは内心焦りを感じていたが、紀子さんには「順調に資産は増えている」と説明していた。

「夫婦で投資するにあたって重要なことは、2人で話し合いを重ねることです。どちらか一方が主導権を握るにせよ、資産が減少するリスクを共有しておくことはマストです。

よくあるのが、夫(妻)に内緒で投資を始めるも、資産が目減りしたことを言えないまま挽回するためにさらに資金をつぎ込み、なお一層状況を悪化させてしまうケースです」

追い打ちをかけるように、輝之さんの失敗を決定的にしたのが、本業の顧客から勧められたフェラーリを使った投資だった。

大手証券会社勤務の輝之さんが3800万円で購入したフェラーリ。維持費と修理費を入れると赤字だった。
大手証券会社勤務の輝之さんが3800万円で購入したフェラーリ。維持費と修理費を入れると赤字だった。

「これからの時代は電気自動車がメインになる。フェラーリのガソリン車はこれで最後。3年後には1.5倍になっている」

という触れ込みだった。

成功者の証しとも言えるフェラーリを手にすることは、輝之さんの自尊心を大いにくすぐり、3800万円で新車のフェラーリを購入した。

しかし、夢の車は予想以上にメンテナンスの費用がかかる。次第に維持費が家計を圧迫するようになった。よくよく聞けば、肝心の利回りは3%ほどにしかならないという。輝之さんはここでようやく、自分の身の丈に合っていないことに気が付き、赤字(維持費と売却する際の修理費を含めると)を出しながら泣く泣くフェラーリを手放した。