世界中でエネルギー資源の争奪戦が起きている

石炭、天然ガス、原油などのエネルギー資源や穀物などの価格上昇により、世界的に物価が上昇している。人手不足も物価を上昇させている要因の一つになっている。わが国にも少しずつ物価上昇の波が歩み寄っている。今後、家計の防衛準備が必要になるだろう。

ガソリンの価格を示す看板=2021年10月13日、東京都内
写真=時事通信フォト
ガソリンの価格を示す看板=2021年10月13日、東京都内

当面、世界的に物価は高止まりするだろう。10月上旬の天然ガス価格などの急騰には行き過ぎの部分があった。足許、エネルギー資源の市況は幾分か調整しているが、世界的な供給制約は深刻だ。短期間でエネルギーや穀物などの供給が需要に見合う水準に回復するとは考えづらい。世界各国がエネルギー資源などを争奪する状況は続きそうだ。

そうした展開が想定される中で、わが国の物価は上昇し、高止まりする可能性がある。電力料金の引き上げなどを警戒し、支出を見直す家計はさらに増えるだろう。それは生活を防衛するための重要な手段だ。その結果、わが国の個人消費の回復ペースは追加的に鈍化し、景気先行きへの懸念が高まる展開は軽視できない。

脱炭素政策、コロナ禍、中豪関係の悪化…

世界的な物価上昇の大きな要因のひとつが、エネルギー資源価格の上昇だ。10月上旬には、欧州の天然ガス価格や中国の石炭価格が急騰する場面があった。足許、天然ガスなどの価格上昇の勢いは幾分か落ち着いたが、価格水準は依然として高い。過去1年間で、原油価格は1バレル40ドル程度から80ドル台に上昇した(WTI原油先物価格に基づく)。

エネルギー資源価格の上昇要因は多い。時系列に確認すると、2010年代半ばごろから世界経済全体で脱炭素への取り組みが強化され、石炭、天然ガス、石油など化石燃料の生産関連の設備投資が絞られた。

その上に、コロナ禍が発生し世界経済全体で供給制約が深刻化した。具体的には、“巣ごもり需要”を背景に家電などの運搬が急増し、海運需給が逼迫した。都市封鎖などによる動線寸断は鉱山や油田開発を停滞させた。さらに、コロナの感染源をめぐって中豪関係が悪化し、中国は豪州産石炭の輸入を一時止めた。

他方で、感染再拡大によって中国は国境を封鎖し、想定外に石炭調達が減少した。中国は石炭の代替として天然ガスを買い求め、電力供給を増やそうとしている。その結果、世界的に石炭や天然ガスの価格が高騰した。なお、中国政府は石炭価格の高騰を抑えるために国内の炭鉱の生産拡張や価格抑制策に踏み切った。