テスラが初期に経験した“リコール”は、リチウムイオンバッテリーが原因だった。高速道路を走行中に、車体の下部にあるバッテリーから発火するという事故が起きた。調査の結果、クルマの下部にタイヤが跳ねた石や落下物が接触し、バッテリーが損傷して発火したことがわかった。

リアルな走行データの蓄積

テスラ車には、高速走行時に空気抵抗を少なくするため、自動的に車高を下げるプログラムが入っていた。そこでテスラはOTAで、すべてのクルマに走行中に車高を下げないようにプログラムを修正した。そのうえで、車検などでクルマが整備工場に入ったとき、バッテリーを保護するチタン製のボディカバーを装備する対策をとった。

また、大前研一「MaaS革命の勝者は、EVではなく自動運転で決まる」で解説したとおり、自動運転レベル5の実現には、膨大なデータ量が必要になる。テスラの場合、EV本体からテスラのサーバーに走行データを送信しており、画期的だ。運転者は、テスラに雇われたテストパイロットのようなもので、リアルな走行データが世界中から収集され蓄積されている。

テスラは後発参入であり製造業の経験が短いから、初の量産型のモデル3などの立ち上げに苦労していた。しかし、優れた技術開発や実績を積み上げ、20年7月には同社の株式時価総額がトヨタを超えて自動車メーカーで世界一となった。工場はアメリカに3つ(建設中を含む)、上海郊外に年間50万台規模を製造できるギガファクトリーがある。ドイツのベルリン近郊ブランデンブルクにも、カーボンニュートラル(温室効果ガスの純排出量ゼロ)を強力に推し進めるヨーロッパ市場の拠点となるギガファクトリーを建設中だ。

ただ、イーロン・マスクは優れた経営者に違いないが、週末を一緒に過ごしたい人格者とは思えず、奇行も目立つ。

前述のタイの救出劇では、自分の潜水艦が採用されず、実際に救助にあたった英国人ダイバーをツイッターで「小児性愛者」と罵倒して非難を浴びた。

また、18年4月1日にツイッターで「テスラは経営破綻した」と投稿し、株価を下落させた。テスラの株価が高すぎると皆が怖がっていた時期で、エープリルフールとはいえ、やりすぎだと非難された。

とはいえ、テスラの時価総額は、今や88兆円ほどで、トヨタは約32兆円。生産台数50万台のテスラが、1000万台近いトヨタの3倍弱の時価総額なのだ。

イーロン・マスクは言ったことを実行する人間だと評価されていることも理由の1つだが、テスラへの期待はほかにもある。まず、EV関連の特許を580も取得していることだ。カーボンニュートラルの流れで、EUなどでこれからEV化が本格化すれば他社への影響は大きい。