海外では死亡事故は起こっていない

2010年3月、私たちは「全国柔道事故被害者の会」を立ち上げ、6月には第1回シンポジウム「柔道事故と脳損傷」を都内で開催しました。当初、100人の部屋を予定していたのに、申込者が多く200人の部屋に変更したほどで、高い関心が寄せられました。

私は、そこで「海外で柔道の死亡事故はゼロである」という発表を行いました。スポーツ振興センターの記録が残る1983年度から2010年までの28年間に、日本では中学校・高校の学校内における柔道死亡事故で114人もの命が失われていました。私は「日本でこれだけ柔道による死亡事故が多いのだから、海外でも当然、柔道事故で子どもが亡くなっているに違いない。数はどのくらいだろう?」と考え、語学に堪能な友人らの協力を得て調べました。

2010年の調査ですが、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イタリアなど、すべての国で死者はゼロだったのです。海外の柔道強豪国の柔道連盟やスポーツ機関、病院などにメールを送って問い合わせました。中でもフランスは当時の柔道人口が60万人と日本の3倍以上でした。いまだに重篤な事故は起きていません。

気合十分に柔道着の帯を締める男性の手元
写真=iStock.com/Miljan Živković
※写真はイメージです

イギリス柔道連盟が定めた「3つの虐待」と対応方法

「ほかの国で死亡事故は起きていません。日本は異常なのです」と文科省の担当者に訴えましたが、当時は信じてもらえませんでした(その3年後、文科省が多額の調査費を投じて調査しゼロであることを確認したそうです)。

この調査で私が驚いたのは、イギリス柔道連盟が指導者らに提示しているガイドラインの内容でした。そこには「成長期の選手の身体能力の未熟さを軽視した過度の訓練、不適切な訓練、過度の競争の3つは“虐待(Abuse)”である」と記されていたのです。

加えて、それら3つの虐待を見聞きした人がどこに連絡し、どう対処、改善すればいいかという方法が詳細に記載されていました。私たちは全文和訳し、被害者の会のホームページに掲載しましたが、それを参考にして改善したという声は残念ながら聞いていません。