「今売れているもの」を追求していくと魅力が落ちる

先ほど、コスト削減をはじめとする「最適化」は、「今、これを、こういう形でつくるのが正しいという前提に立っている」と述べましたが、逆にこうした前提に立つと、「今やっていることは正しいはずだ」という固定観念もまた強くしてしまいます。

別所宏恭『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』(クロスメディア・パブリッシング)
別所宏恭『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』(クロスメディア・パブリッシング)

商品を企画していく中では、失敗は絶対にあるもの。でも、こうした固定観念が行きすぎると、「外すこと」自体を避けようとして、結果として魅力のない商品ばかりをつくってしまう危険が高まります。

1990年代に、マクドナルドが「100円バーガー」を打ち出して成功したのを見て、コンビニも「100円おにぎり」を出して対抗しました。この低価格路線がヒットしたのを受けて、「次は90円だ」となります。ただ、そうして値段を下げていくうちに、どんどんおにぎり自体がまずくなってしまった時期がありました。

テレビの番組制作においても、毎分の視聴率を参考にして細かく分析をすることで、「こういうシーンで視聴率が上がる」「こういう要素を入れるとよく観られる」というのが詳しくわかります。そうしたデータを絶対視して、現在の視聴率に「最適化」を図っていくと、結果的にどのチャンネルでも同じような形式、同じような演出、同じような出演者の番組ばかりになり、かえってテレビ番組全体の魅力を落とすことにつながってしまっています。

デジタルツールは回収できないコストを気にしない

また、先ほど述べたように、商品やサービスを生む仕組みについては、普遍的な部分は最適化すべきですが、その仕組みづくりの中で、とくにデジタルツールについては、「今の技術」をベースに最適化しすぎるのは問題かもしれません。

なぜなら、情報の記録や共有などにより適した新しいデジタルツールは、次々にリリースされるからです。そうなったら、本来はツールを乗り換えて仕組みをアップデートするのが「真の最適化」となるはずです。

その切り替えを素早くできる組織ならよいのですが、日本人はとかくサンクコストに囚われがちでもあるので、意識的に「今のデジタルツールで効率を突き詰めすぎないようにする」のもひとつの手でしょう。