「ネットがつながらない」という贅沢な時間

世界中どこでも、ネット網がはりめぐらされている。街中には無料で使えるWi-Fiがいたるところにあって、サハラ砂漠にすら、ネットのつながる場所があると聞く。

安藤美冬『つながらない練習』(PHP研究所)
安藤美冬『つながらない練習』(PHP研究所)

この世界では、ネットがつながらないことはもう、不便というより“貴重な体験”となりつつある。ネットがつながらない離島への旅を旅行会社が「圏外旅行」として売り出したり、スマホやテレビが禁止の宿が話題になったりするくらいだ。

私も、以前、そんな貴重な体験をしたことがある。世界一周船「PEACEBOAT」の水先案内人(船内で乗客に向けて講演をする役)として乗船したときだ。海上でも衛星回線を使えるが、料金はそれなりで回線も不安定になりがちで、まったくつながらないエリアを数日間航行することもある。

それなら、とネットを使わないことに決めた。

こうして3週間の乗船仕事は、図らずも「圏外旅行」となった。

ネットとつながらない期間が3日過ぎ、1週間を過ぎると、次第にこうした“異様な”環境に慣れてしまった。そこで思った。どうしてあんなに近況報告に忙しかったのだろう、と。

船に乗る直前までは、「パスポート片手に、空港に向かいます!」「アメリカに到着しました」「今、メキシコにいます!」と、節目ごとに画像と文章をアップしていたし、そのことに何の疑問も抱かなかった。これは仕事の一環だという意識もあった。

でも、気づいてしまった。講演の仕事がない自由時間、デッキに出て、ゆっくりと進む船が海面に残していく波の跡を眺め、青い空を見上げ、風に吹かれていると、近況報告など、どうでもよくなってくる。

船は飛行機の24倍遅く進む。

つまり飛行機が1時間で到着する距離を、まる1日かけて進むのだ。

それを非効率だと怒り出す人はいるだろうか? それと同じで、ゆっくり日常を生きる日があってもいい。

月に1日でいい。スマホを家に置いて外に出てみよう。

戻ってきたらSNSへの熱意がしぼんでいた

図らずも「圏外旅行」となった3週間の船旅から帰国した後、SNSに向けていた熱意は急速に萎んでいった。日課となっていた近況報告や(仕事の)宣伝、オンライン上のつきあいに、以前ほどの価値を見出せなくなったからだ。

多少の影響力、発言力を得て、インフルエンサーとしての様々な仕事、そして著名人やファンとの交流を楽しんできたのは事実だ。でも、莫大な時間とエネルギーを、「これも仕事の一環だ」と自分をだましながらSNSに注ぐ現実もある。

1日6時間前後のネット生活を7、8年。「スマホ(SNS)依存」そのものだ。いや、「承認依存」「つながり依存」と呼ぶべきか。

発信を楽しみにしてくれる人や仕事のことを考えると、迷いが出る。けれども最後は、「ネットのない世界に生きよう」と、本心に従うことにした。