菅首相はなぜこのタイミングで退陣を表明したのか

9月3日の「首相退任・退陣表明」には驚かされた。菅義偉首相は前日の夕方には自民党本部を訪れ、二階俊博幹事長にあらためて自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への出馬の意思を伝えていたし、総裁選で示すための30兆円に及ぶ経済対策の策定準備も進めていた。記者会見では「その時期がきたら、出馬をさせていただきたいと申し上げている。それに変わりはありません」と繰り返し、その姿が何度もテレビ画面に映し出されていた。

首相官邸に入る菅義偉首相=2021年9月3日午前、東京・永田町 
写真=時事通信フォト
首相官邸に入る菅義偉首相=2021年9月3日午前、東京・永田町 

ところが今回の突然の表明である。沙鴎一歩はこの連載で「菅首相は後進に道を譲るべきだ」と訴えてきた。結果的にはそうなったが、引き際がきれいとは言えない。「立つ鳥跡を濁さず」である。もう少し早く表明し、一国のトップらしさを私たち国民に見せてほしかったと思う。

それにしても、菅首相はなぜこのタイミングで退任・退陣を表明したのか。

小泉進次郎氏は涙をこらえながら「感謝しかない」

これまでの報道を総合すると、菅首相が「出馬せず」を決めたのは9月2日夜とみられ、二階氏ら党幹部や内閣の主要メンバーに伝えたのが3日朝だった。

この2日夜までに何があったのか。ひとつは、菅首相が信頼する閣僚の1人である環境相の小泉進次郎氏との面会だ。小泉氏は8月30日から2日まで4日連続で首相官邸を訪れ、菅首相に対し、若手国会議員の首相批判と前首相の安倍晋三氏の意見を伝えたうえで「総裁選で勝てる見込みがあるのですか。もしその見込みが厳しいのなら現職の総理としてあえて選挙戦を戦う必要がありますか」と不出馬を勧めた。

この小泉氏の助言が菅首相に不出馬を決断させた要因のひとつだろう。小泉氏は3日に退任表明後の菅首相と面会した後、涙をこらえながら「感謝しかない。引くという選択肢まで含めて話をする私に対して常に時間を作ってくれた」と記者団に語っていた。