嫌韓意識と差別感で沸き立つ世論

【安田】ところが李明博が竹島に上陸すると、沸騰するわけです。韓国大使館周辺はもとより、全国の街中でさまざまな反対運動や上陸に対するリアクションが盛大に行われる。

ノンフィクションライターの安田浩一さん
撮影=西﨑進也
ノンフィクションライターの安田浩一さん

これは通常のナショナリズムというよりも、やはり嫌韓意識と差別感、韓国だからここまで沸き立つという、いまの社会の特異な状況があるのかなと感じました。米軍が沖縄の土地や海を奪っても、ロシアの首相が北方領土に上陸しても、日本のネトウヨは騒がない。韓国がやると、途端に日本人のナショナリズムが高揚し、激しい反発が起きるというのが、日本型の排外主義の姿かなという気がします。

【青木】そうですね。排外主義に加え、根っこにはやはり朝鮮半島に対する抜きがたい偏見や差別意識が横たわってるんでしょう。また、弱いものいじめの気配もある。アメリカや中国、ロシアといった大国に刃向かったらリアクションが怖いけれど、北朝鮮はもちろん、韓国ぐらいが相手なら叩いても構わないといった心性もちらついて気分が悪くなります。

【安田】そのとおりですね。青木さんが言われたように、朝鮮半島との関係で言えば、拉致問題ではじめて日本が被害者になった。それはイコール、初めて韓国、北朝鮮に堂々とものを言えるようになったと思い込んでいる人間がいて、そのうちヘイトを吐き出すようになった。タガがはずれた状態になってしまったということでもありました。

本来、対等にものが言えるということは悪いことじゃないんだけど、戦争や植民地主義への反省を、たんなる抑圧だと思い込んでいる人間にとってみると、解き放たれた気持ちになって、それが一気に排外主義にまで突き抜けてしまったんじゃないか。

アメリカ、中国、ロシアには物言わぬ日本

【青木】なるほど。しかし、よく言われる指摘をあえて持ち出しますが、ヘイト団体が訴える「特権」を日本で享受している者がいるとすれば、その最たるものはアメリカなわけでしょう。なのに「戦後レジームからの脱却」を打ち出した政権は「戦後レジーム」そのものであるアメリカとの関係を再構築する気はない。むしろ自ら尻尾を振ってひたすらにひれ伏すだけ。

世界から眉をひそめられたトランプ政権にも媚を売りまくり、目玉が飛び出るほど高額な兵器を爆買いさせられ、沖縄県・辺野古の基地建設や地位協定は見直しに言及することすらしない。アメリカが中国包囲網だと言い始めればその尻馬には乗るけれど、面と向かって中国に物申すこともほとんどない。

官邸主導のロシア外交もひどいものでした。北方領土交渉が前進するかのようなムードを勝手に振り撒き、「固有の領土」という表現すら封印したあげく、安倍晋三はプーチンに向けて「ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」などと気持ち悪い台詞で呼びかけたけれど、最終的には一蹴されて一巻の終わり。