ミスが起きるなら、冷凍庫を使わなければいい

ワクチンの品質保証とはしっかりと冷凍保存をすることであり、廃棄しなくてはならないような余分を出さないことで、こちらは「自働化」の考えから派生したものだろう。

各地で接種が始まって以来、ワクチンを無駄にする事故が起こっている。冷凍庫のコンセントが抜けていた、あるいはドアを開けたままにしていたら庫内の温度が上がってしまった……。いずれもうっかりミスである。だが、うっかりミスはいくら注意しても起こることがある。

トヨタのチームは、うっかりミスが起こらない方策をとった。

高橋は言う。

「ヤマト運輸さんとトヨタは、冷凍庫でワクチンを保存するのではなく保冷剤にしました。クーラーボックスに保冷材を入れて、そのなかにワクチンのバイアル(注射剤の入った容器)を保管し、必要な数量だけをセットにして、必要な時間に確実に配送することにしたのです。

保冷剤と言ってもスーパーでもらってくるやつではありません。今回使用しているのはマイナス120度の保冷材。静岡県沼津市のADD(エイディーディー)という会社から入手しています」

ワクチンはアメリカのファイザー社からドライアイスの入った保冷ボックスでやってくる。日本に着いたら、冷凍倉庫に保管された後、ヤマトの中部ゲートウェイセンター(豊田市)までドライアイスの保冷ボックスでやってくる。

そのままトヨタの会場まで運べばいいのに、とわたしが言ったら、高橋は首を振った。

「いえ、ヤマト運輸さんと私たちはドライアイスから脱却したかった。なぜならドライアイスは二酸化炭素そのものだし、1回しか使えません。脱炭素の時代にそぐわない。今回、私たちが使用している保冷材は50回近く循環して使えますし中身は塩水です。廃棄するにしても環境にダメージを与えることはありません」

マイナス120度冷凍庫の増産支援へ

冷凍庫を各会場に設けることはできる。しかし、うっかりミスをなくすことはできない。その点、保冷ボックスなら電源はいらない。また、クーラーボックスなら蓋が閉まっているかいないかは一目で分かる。

「ただし、問題がありました。保冷剤をマイナス120度にするには冷凍機がいります。ADDの製造工場にはマイナス120度にする冷凍機があるのですが、それを大量に入手するには増産しなくてはなりませんでした。当初、『1日1台しか作れない』と言われたので、それで増産チームを派遣して、1日に10台、生産できるようカイゼンしたのです」