「買い物の時にも気軽に利用」をうたう事業者があるということは、実用時には荷物を持っているか背負っていることが想定されているはず。

自転車の場合、荷物を入れるカゴが付いているし、重たいリュックを背負っていても本人が座っている状態であるため、重心はぶれにくい。が、この電動キックボードにはカゴがなく、直立かつ足を前後させた状態で乗ることになるため、リュックを背負った場合、上重心となりふらつきやすくなる。

実際走った際は、パソコンや手帳、取材道具などを入れたリュック約6kgを背負い走行してみたが、キックボードの構造上、両足を揃えられないことも手伝い、右左折時にバランスが取りにくかった。

肩に掛けたカバンが走行中にずり落ちた際、掛け直そうと片手を離そうものなら転倒し、重大事故につながる可能性もある。

また、買い物で荷物になりがちな「紙袋」は、肩ではなく手に掛けることになるが、風を一身に受ければ、走行中ずっと手元で踊ることになる。

緩すぎるルールの数々……

「服装自由」「スカートでも気軽に利用」ともうたっているが、ヒールやスカートは非常に危ない。紙袋同様、風になびいたスカートが気になり前方不注意になったり、スカートを押さえることで片手走行になる恐れも。中でもロングスカートは、大きくなびけば隣車両の車輪や車体に絡まったり、ひっかかったりする恐れもある。

コートを風になびかせながらスマホを注視して走行する電動キックボード
画像提供=筆者
スマホ画面を見ると、視線は自然と真下に落ちる

今回筆者も比較的ユルめな服装で走ってみたが、スピードが出るところではなびきが気になった。靴もヒールでは絶対に利用しないほうがいい。

両足を揃えて乗れない電動キックボードは、平均台にいる感覚に似ている。後述するが、日本の道路はガタついているところが多いため、ヒールはよりバランスを崩しやすいし、足を地面につける時も非常に不安定になる。

また、走っていた時に非常に気になったのが「スマホホルダー」の位置だ。今回の電動キックボードには、ハンドルとほぼ同じ高さにスマホが取り付けられるホルダーが付いているが、自動車と違い走行時は視線が自然と真下に落ちる。

フードデリバリーの配達員たちによる走行中のスマホながら事故が多く報告されていることに鑑みると、今後、電動キックボードでも同じような事故は間違いなく起きると断言できる。

ハンドルの中央についたスマホホルダー
画像提供=筆者
電動キックボードに備え付けられたスマホホルダー

「右高左低」の道路に不向きだ

電動キックボードが不安定になるのは、彼ら側の走行条件に限ったことではない。

交通量の多い車道を走るキックボード
画像提供=筆者
荷物をぶらさげて走る利用者も

電動キックボードが主に走らされる「道路の左側」は、路駐のクルマをはじめ多くの障害物があり、道路の中でも最も不安定な場所なのだ。

日本の道路は、落下物や雨水などを道路脇に流すため、多くが「右高左低」となっている。そのため道路左側には、転がってきたごみや水たまり、側溝だけでなく、重心が左に寄ることでできる「クルマの轍」までが集中する。

一方、この電動キックボードは、思った以上に車輪の径が小さい。

実際走ってみると、ほんのわずかな段差や道路のつなぎ目でハンドルが取られるだけでなく、粒径の大きいアスファルト道路でも手に振動が伝わってくる。

こうした障害物の多い道路を、この径の小さい車輪で、しかもノーヘル直立のライダーが荷物を持って走行すれば、たとえ速度が遅くても、バランスを崩し転倒・大事故の可能性が十分にあるのだ。