では、新型コロナが収束して企業の採用マインドが氷解すれば、新卒マーケットが以前のような売り手市場に戻るかといえば、これは難しいと思う。

理由の1つは、会社の業務を代替するアウトソーシング(外部委託)が非常に充実してきたことだ。アメリカのoDesk(オーデスク)、日本で言えばクラウドワークスのようなクラウドソーシング企業を活用すれば、必要とする業務、職務に適った人材を世界中からマッチングできる。アメリカはシステム開発のほとんどをインドはじめベラルーシ、ウクライナ、フィリピンなどの安価で優秀なプログラマーに発注しているし、「ナインシグマ」など技術者のプラットフォームを経由して、研究開発職さえアウトソーシングしている。日本でもリモートワーク専任の人材派遣業を営むキャスター(中川祥太社長)などの会社を活用する企業も増えてきている。

地引き網のように新卒を一括採用するのは、日本特有の人事雇用制度だ。優秀な人材を囲い込んで、採用の手間とコストを低減できる。さらに言えば終身雇用、年功序列という日本型経営システムとの折り合いも良かった。しかし終身雇用や年功序列が崩壊し、人事制度が能力主義や成果主義に徐々にシフトしつつある中で、新卒一括採用の見直しが議論されるようになった。事実、18年には経団連(日本経済団体連合会)から新卒一括採用・終身雇用に関する問題意識が表明された。

自社に社員を抱え込んで5年、10年かけて、人事異動を頻繁にやりながら、自社にだけ精通した会社員を養成していくよりも、たとえば経理なら経理のエキスパートを一定期間派遣してもらったほうが合理的だということに、日本企業が気づき始めたのだ。技術の発達によって外部にアウトソーシングしても何ら矛盾や支障が生じないほど仕事が平準化し、アウトソーシングすることを厭わない職場環境になっている。

在宅勤務になって喜んでいる暇はない

さらに、新型コロナの蔓延防止からテレワークが推進されたことも、アウトソーシング化を加速させている。オンライン会議システムZoomなどの活用が進んでいるが、社員をフルタイムで在宅勤務させるくらいなら、もっと能力のあるエキスパートに時間単位で業務を委託したほうがずっと仕事のパフォーマンスは高くなる。テレワークに加えて、AI(人工知能)やRPA(ソフトウェア型ロボットによる業務の自動化)が普及し始めているから、正社員の採用を減らしてアウトソーシングを進める企業は増加していくに違いない。