こうしたことを含めて私は刻々と自分の番組で解説していたが、これがYouTubeで流れるや、200万人以上が視聴した。東京電力や政府の発表と違うことを流布したとして官邸に呼ばれたが、菅直人首相(当時)はBWR(沸騰水型原子炉)の断面図を持ち出してきて「説明しろ」という熱の入れようだった。その後、再臨界は起きず(意図的に再臨界を起こさせるのも難しい)、水で冷やし続けて今日に至っている。

スリーマイル島規模の原発事故なら、十分に時間を掛ければ燃料デブリを取り出して廃炉作業を進められるかもしれない。しかし、ほとんど全部の燃料がメルトスルーしたチェルノブイリ原発事故レベルとなるとお手上げで、象の足と化したデブリは切り分けないと絶対に取り出せない。だからチェルノブイリは解体を断念したわけだ。福島第一においても、圧力容器の底に固まったデブリを取り出す方法は今のところ見当もつかない。

処理水は太平洋沖合に放出すべし

2つ目の課題は増え続ける汚染処理水である。デブリ冷却のための注水に加えて、地下水や雨水が原子炉建屋に流れ込むことなどで発生する放射能汚染水は、今も毎日約140トンずつ増えている。これを多核種除去設備(ALPS。62種類の放射性物質を取り除けるが、トリチウムは除去できない)などで浄化処理した「処理水」を敷地内に増設してきたタンク約1000基に貯蔵してきたが、もはや置く場所がほとんどない。東京電力によれば2022年夏以降に保管容量は限界を迎えるという。

処理水に含まれている放射性物質トリチウム(三重水素)は宇宙線などによって自然界でも生成され、大気中の水蒸気や雨水、海水、水道水などにも含まれている。「β線」という放射線を出しているが非常に微弱なために、外部被曝による人体への影響はほとんどないとされる。健康被害が大きいのは体内に取り込んだ場合の内部被曝だが、これも濃度をコントロールすればリスクはかなり低減できると言われている。

実際、海外の原発でも、発生したトリチウム水をそれぞれの基準値に照らして濃度を薄めて大気中や海に放出している。フランスは日本とは桁違いな量のトリチウムを主として川に流しているし、福島の汚染水処理に批判的な韓国も自国の原発から出たトリチウムを日本海や大気中に放出しているのだ。

処理水を海水で希釈してトリチウムの濃度を国の排出基準以下にしたうえで海洋放出するという方向で政府は検討しているが、風評被害を懸念する漁業団体などとの調整が難航して、処分方針の最終決定は先送りされてきた。原発事故から10年経った21年3月9日に閣議決定した21年度以降の復興の基本方針改定においても、処理水の処分方法については「適切なタイミングで結論を出す」という表現にとどまっている。