新型コロナウイルスの影響でイベントができない音楽業界では、演奏の動画配信や、音楽アプリで楽曲提供する手法が活発になっている。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文氏は生演奏にこだわる一方、「音楽配信アプリはもっと普及すべき」とも指摘する——。(第2回/全2回、聞き手・構成=姫路まさのり)
後藤正文氏
撮影=遠藤素子

10月のツアーを収録し、有料で配信

前回記事(アジカン後藤「ミュージシャンを“お前らは不謹慎だ”と非難する社会に伝えたいこと」)で、後藤は「生で音楽を聴くという体験は一回切りのもの」であり、「絶対に収録できないものがある」とまで言い切った。アーティスト本人にそこまで発言させるほど、特別で上質な体験である“ライブ”。しかし、コロナ禍の人数制限などの影響で、通常公演もままならない中、運営側がこぞって取り入れたのが、生演奏をネットで全国に届ける「有料配信サービス」であった。

アジカンももれなく全国ツアーが全公演中止となった。そこで10月の3日間にわたり、「KT Zepp Yokohama」(横浜市)にて有観客の公開収録ライブを敢行し、その模様を後日有料配信するという方式をとった。人数制限とソーシャルディスタンスを保ち、観客も声を出すことを禁じられた中での公演は、味わったことのない空間だったと微笑みさえ浮かべた。

見に行けない人にも届けられる。だけど…

「お客さんも声が出せないからか、その場になじもうと周りをキョロキョロしているように見えたんです。でも逆にあれだけソーシャルディスタンスが保たれていると、周りに合わせる必要がないじゃんって(笑)。みんな新しい環境で探っているんだなと。答えなんてないから、自分の楽しみ方を改めて見つけて楽しんでほしいですよね。空いている椅子に荷物置けて意外といいなとか」

新たな取り組みへの展開を模索し歓迎する一方、コロナ禍で急拡大、急成長する「配信」という手法に対して、後藤はバンドマンとして一家言あるという。

「アジカンも、コンサートの無料配信は早い段階からやってきました。参加できない人もいるし、大人になって色んな事情で“ライブ現場”から引き揚げてしまう人達にも届けられると考えていました。生の現場で、そこでしか体験できない特別な空間にお金を払ってもらうのがチケット代というか。だから、今回の配信も本音は無料でやりたかった。有料配信の流れは仕方ないし、凌いでいかなければならない部分もあるけど、逆に今度は“無料に戻れなくなるのでは?” という心配もあります」

“失われるもの”は絶対にある

実は後藤に限らず、コロナ禍で多くの関係者から漏れ聞こえた言葉がある。それは「配信はライブの代替には決してならない」である。

より多くのお客さんに観てもらうことが目的であれば、配信は有効手段と言えるだろう。実際に、会場の収容人数を何十倍、何百倍と上回る視聴数を記録したライブ配信もたくさん生まれた。だが同時に生の音を体中で浴びる、という醍醐味は必然と薄まってしまう。前回記事で述べたように、駆け出しミュージシャンからすれば、ライブハウスは“ボトムアップの場所”でもある。まだ知名度の低い彼ら彼女らの配信を、どれだけの人が視聴してくれるのだろうか? という疑問も首をもたげる。