93年1月31日、スーパーボウルの一戦

スポーツの現場を長く取材してきた。勝負の際、劣勢サイドの「土壇場力」を目のあたりにしたことも多い。追い込まれた側の戦略である。普通にやっていたのではほぼ負けてしまう。だから一か八か、一発逆転の策を打つ。それが決まったときの爽快感といったら。もちろん、スカとなる場合のほうが圧倒的なのだが。

79年日本シリーズ第7戦で力投する広島・江夏豊投手。山際淳司によるノンフィクション「江夏の21球」のモデルになった。
79年日本シリーズ第7戦で力投する広島・江夏豊投手。山際淳司によるノンフィクション「江夏の21球」のモデルになった。(共同通信イメージズ=写真)

有名な事例は数多ある。プロ野球なら「江夏の21球」(1979年日本シリーズ第7戦)、大相撲では2001年5月場所の「鬼の形相、貴乃花優勝」(小泉純一郎元首相の「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!」ですね)、オリンピックの柔道なら大怪我をしたのに金メダルを獲った山下泰裕(84年ロサンゼルス)や古賀稔彦(92年バルセロナ)などなど。

そんな中でも「こりゃ、すげえや」と唸ったのがアメリカンフットボール。さすがにファイナルスポーツと言われる戦略のゲームである。

要諦を先に言ってしまえば、「できることだけをやる。ただし完璧に」。窮地に陥ったときの腹の括り方である。世界中が注目する最高峰の舞台、第27回スーパーボウル。93年1月31日だった。ダラス・カウボーイズvsバッファロー・ビルズ。

当時、アメフト専門誌の記者だった私は、現場(カリフォルニア州パサディナ)にいた。記者席ではビール飲み放題、ホットドッグ食べ放題だったが、私は興奮と緊張のあまり、水しか喉を通らなかった。

9万8374人の観客の声援が記者ブースに震えて届くのである。