「贈与されたこと」に対して覚える後ろめたさ

2020年6月、私自身も分科会のメンバーを務める世界経済フォーラムは21年1月に実施予定の年次総会(ダボス会議)のテーマを「The Great Reset=グレートリセット」にすると発表した。創設者のクラウス・シュワブは、「第2次世界大戦終了から続いてきた資本主義は限界を迎えている。人々を幸福にする新しい経済システムが必要だ」と語る。

近内悠太『世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学』(NewsPicsパブリッシング)
近内悠太『世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学』(NewsPicsパブリッシング)

「新しい経済システム」とは? それは経済における「贈与感性の回復」だと私自身は考える。資本主義世界では、お金を媒介して財を交換する。お金を意味するファイナンスの「ファイ」は元々「ファイナル(終了)」の「ファイ」と同語源。つまり「お金を払って関係を終了させる」から「ファイナンス」なのである。この関係性を、相互に贈り贈られる関係性に転換することで、エコノミーにヒューマニティを回復させる動きが出てくる、というのが私の考えだ。

現代思想がしばしば考察の対象とする「贈与」という概念を、今日的な意味で初めて取り上げたのはフランスの文化人類学者、マルセル・モースだった。モースは、いわゆる原始社会における経済が贈与によって駆動されていることを示したうえで、私たちの生きる現代社会があまりにも「等価交換の原理」に傾斜しすぎていることを批判した。以来、哲学・思想の世界では「交換」と「贈与」を対置させて考察するのが慣わしとなった。